富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
118:『「市場調査」集中講座』 16:56
118『市場調査](ジャケット
大学に勤める前,私は広告業界に身を置いていました。ここでの20年間,私は,本の作者・牧野 真氏が言う「調べるスキル」(p.23)を学べたと思っています。
作者は,現役の広告代理店ディレクター。「説得力のあるビジネス提案に欠かせないマーケティング。そのマーケティングで必要とされるのが市場調査だ。(中略)市場調査の概略から具体的なリサーチ方法まで解説」(ジャケットの袖に記載)した本です。私はとても臨場感と共感を持って読むことができました。

「市場調査」(図解)調査をすれば何かが判るという幻想はありがちですが「調査を実施すれば,あなたが抱いている問題がすべて解決するというのは夢物語」(p.80)で,先ず仮説づくりありき,同時に「仮説を前提に解決策も検討しておく」(p.88)企画プロセスの肝が説かれたプランニング作法読本です。

例えば『自社の主力商品の売上げ低迷の要因を探る調査』であれば,売れていない要因が分かっただけでは先に進めません。「『そのことを今後どう解決していくのか』まで事前に検討しておく」「こんなことがわかった」では「それがわかったところで意思決定につながらない」(p.88)と,市場調査への幻想を戒めています。
市場調査の目的は,現状の評価ではなく,次のアクションプランのための一つの情報に過ぎない訳です。

また市場調査というと,数値アンケート(定数調査)という考え方が一般的ですが,消費者の生の声を収集する手だてとしてグループインタビュー等の定性調査も多くのページを使って解説しています。

本書では,情報を収集することは「『気づき』を蓄積すること」(p.170)と,仮説を構築していく力(ファクト・ファインディング力)の必要性が随所に展開されています(上図参照/p.122掲載図より)。
プランニングにおける[調査をする意味]と[調査手法]が詰まった本という性格です。これは書名の前に「プレゼン&セールスに役立つ」というショルダーが付いていることからも窺えます。

『「市場調査」集中講座』(牧野 真,アスペクト,2008年)1500円
[追伸]
勤務校では卒業研究の提出が今月末に迫っています。レポート試験のように統一テーマの提示ではなく,各人が独自のテーマを探究していくのが卒業研究です。しかし,1年前の着手時ですと,大学生は「既存情報と付随の分析」を探すことを「調査」と捉えてしまいます。これはプランニングの足掛かりに過ぎないと,やがて理解していきます。
毎年,この指導を繰り返していますが,調査の在り方を説いた適切な教科書を見つけきれないでいました。来年度は,本書をゼミの教科書にして,進めていきたいと考えています。
| 企画・広告・マーケティング | - | - | posted by tomiyama - -
<< NEW | TOP | OLD>>