富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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196:『モダンガールのスゝメ』 20:16

モダンガールのスゝメ

 

● 生活が質素だった大正時代の上品さ

この数年来の「断捨離」や「ミニマリスト」等の「モノとのしがらみを断つ」提唱(blog No.174)は,蒐集癖が半端ではない私(富山)には,ノーマルに近づく手立てとして,相当の成果はあったのです。が,寧ろ「部屋を使いこなしているぞ感」(blog No.187)のある日常からカケ離れない程度の生活を望むようになりました。また,提唱者らの「ときめかないモノを手放す」(blog No.183)教えに,そもそも私は,生活に潤いを与えてくれる,ときめくモノを所有しているだろうか? と考えるようにもなりました。

断捨離を生活スタイル刷新の第一歩とするなら,第二段階は「大切なものと丁寧に暮らす」(blog No.194人生への考え方でした。が,ここに来て,衝撃的な本に出会いました。物が豊かな時代のセレクト思考ではなく,質素だった時代の上品さの追究の立ち位置です。

それが『モダンガールのスゝメ』,作者・淺井カヨ氏は,もちろん現代人ですが「モガ」です。モダンガールと言えば,映画『この世界の片隅に』(2016年)では,主人公・すずが義姉の保管していた大正時代の超先駆的な洋装に対し「モガだったんですね」と語るシーンが思い起こされます。

作者のモガ化は,小学校の頃に訪れた博物館明治村(愛知県犬山市)がきっかけだったようです。幼い頃から昔の建物に強い興味のあった彼女は「使い込まれて軋み音がする床に,木枠の窓で表面が波打つ硝子,そこに夕日が射す光景,色とりどりの朝顔が咲いた樣な澤山の古い蓄音機,木の濕湿った匂ひ,柱時計の音」(p.02,原文:旧漢字を使用とは徹底してますな。以下,引用は同様),その世界観への心酔が,大モガph人になるにつれ「格好だけではなく,大正から昭和初期にかけてのあらゆることを,何でも知りたい」(p.06)となり,やがて不動産店に「町で一番古い物件を紹介してほしい」と「生活の全てが実践」へと爆発!

「生活に當時のことを取り入れた話」(p.07)を綴ったのが本書です。

 

● 生活それ自体を大正末期〜昭和初期に当てはめる

實際に昔へ行くことは叶ひませんから,

殘ってゐる實物やら資料から

少しでも生活を追軆験しようとしてゐるのです。

休日や外出時だけの趣味でなく,

生活それ自軆を全て

それに當てはめるといふことをしてゐます。

その生活は,私の身軆にとても

合つてゐることがわかりました。(ジャケット見返しより)

 

● 現代のモガとモボの建てた家 

作者は「當時に近附きたい!」一心から,古い文献やら,もう百歳の方への取材まで,徹底的にアプローチした姿が,たくさんの掲載史料から窺えます。「大正の人々と對話する氣分で資料を探し」(p.87)た史料は,本書の中では,モダン洋装(洋装,髪型,化粧,美容)の記述が多くを占めますが,口絵には「わたくしの下宿の樣子と實際に使用してゐる生活道具です」が紹介され,最終章(第四章)では「暮らしの實際」として,住居・道具論となっています ── 此処こそが私の注目箇所でした。作者は「今は餘り無い道具をなるべく試す様にしてゐます」(p.106)と,なんと氷を用いて冷やす冷蔵庫(電機ではない)や,調理にテンピ(=蒸し焼き器。電車レンジに非ず)や火鉢を使う生活を愉しんでいるようですが・・・この凝りようは怖いほどに凄すぎです。

で,最後から10頁ほど,興味深い節が現れます ──「モダンボーイを見附ける」です。「この樣な生き方を理解してくれる異性は現れないかもしれません」(p.122)と諦めていた彼女に,同じような生き方をしてきた男性が・・・。

そして最終節は ──「結婚することが決まり,新居をどうするかといふ話になって,家を新しく建てることにしました」(p.126)。さて,もう,お分かりですね,現代のモガとモボの建てた家は・・・・・「昭和初期に建造された和洋折衷の小住宅を,大いに參考とした家」(p.126)でした。

 

『モダンガールのスゝメ』(淺井カヨ,原書房,2016年)1600円+税

 

[追伸]

本書を知ったのは,web上の広告記事「現代のモダンガールとモダンボーイが建てた,大正末期〜昭和初期の薫り漂う文化住宅」(http://suumo.jp/journal/2018/06/21/156044/からです。施主は著書もあるとの紹介で,行き着いて入手したのが,この『モダンガールのスゝメ』です。

では,彼らの「昭和初期に建造された和洋折衷の小住宅を,大いに參考とした家」は,本書では,こう紹介で締めくくられています ──「街をかなり歩き廻って,參考になる建物を見るたびに感嘆の溜息が出ました。試しに住宅雑誌を何冊か讀みましたが,どれも全く參考になりませんでした。參考になるのは,大正から昭和初期の文獻ばかりでした」(p.127)と。

でも,最終の1行には「半年以上をかけてやつと工務店を見附け,前進しています」── 本書が出た時点(2016年3月)では,未完成だったようですが,続編として,この「現代のモダンガールとモダンボーイが建てた,大正末期〜昭和初期の薫り漂う文化住宅」が出版される日も近いのではないでしょうか。家は2016年秋に竣工しているようです。

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