富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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192:『なぜトイレにドアがあるんだろう』 00:40

192:トイレになぜドアが

 

● 30年前からのメッセージ

かれこれ30年来のマイルールとして,本の見返しに購入年月日を記しています。『なぜトイレにドアがあるんだろう』には「31 AUG 1987」のスタンプがありますので,ちょうど30年前に入手した本です。書名からして,少し衝撃的です。

東陶機器(現 TOTO)は,1987年に創立70周年を迎えました ── となると,今年は100周年になりますね ── 当時,記念事業として「水まわりを中心に,近未来の快適な生活空間をつくってみよう」(p.01)とするプロジェクト 『アクア-ヒューマニア ’87』が企画されました。入社1年目のデザイナーから勤続20年の技術者まで,課を超えた全17名が結集されたチーム,その提案エッセンスを「どなたにも楽しく読んでいただけるように」(p.03)書かれた一般向けの書籍です。

私が社会人になりたての頃に購入し,今も持っている本の一つです。提唱されている「なぜトイレにドアがあるのだろう?」は,以来,私の住宅観に相当の影響を与えてくれました。

 

 

●「おしりだって,洗ってほしい」

衛生陶器は生活に密着しているとはいえ,かつては地味な産業だったように思い起こします。TOTOは1982年に,シャワートイレの広告「おしりだって,洗ってほしい」で一躍注目を集めた企業でした。TV-CMで女優・戸川 純から発せられたコピーは当時の流行語にもなりました(https://www.youtube.com/watch?v=858Dn5I5hLo)。この『ウォシュレット』登場は,水まわりの住空間を提案するTOTOの企業イメージを優勢に決定づけた出来事だったと記憶します。

 

192:ウォシュレット広告192:TOTO新聞広告
ウォシュレット広告(1982年)                 70周年 新聞広告 第4弾(1987年)

 

70周年記念事業を1年後に控えた1986年6月,プロジェクトに課せられたのは,展示会『アクア-ヒューマニア ’87』での展示製品は「モデルでもパネルでもなく,すべての機能を実際に作動させて提案」(p.32),しかも「三年後か,五年後に実現できるもの」(p.168)という条件下での「こういう暮らしがしてみたい」近未来のプレゼンテーション。

 

●「パーソナルルームのトイレにドアはいらない」(p.112)

メンバーは,水まわりを中心とした住空間に関し,本書によると次の5つのシーンを柱として掲げたようです。

公共の場における女性向けの新しいトイレのあり方

マンションにおける合理的・効果的な空間構成のあり方

一般住宅における高い利便性と快適性

シティホテルを利用するビジネスマンの客室

オフィスにおけるリフレッシュ空間の新しい方向性

 

このカテゴリーで登場するのが,書名の基となった「パーソナルルームのトイレにドアはいらない」の項目です。

「プライベートルームなんだからドアはいらないんじゃないか。だいたい一人で家にいるとき,トイレのドアを閉めて用を足す人は少ない。だったらドアをとってしまおう」(p.116)── この真偽は世間の傾向としてクエスチョンながら,当時,妙に納得したものです,わたしゃ。

ですが,本書は「〜ということになったがちょっと待て」と続きます ── 部屋にトイレを持ち込む発想ではなく「トイレに部屋を持ち込めばいいのだ」と ──「収納型の手洗器やテレビを組み入れ,電話を置いた。(中略)小型冷蔵庫や食器をおいてもかまわないが,それはまあ,お好みしだいというところ」(p.119)。ここまで来ると,私も引いた!

他に「リビングにバスがあってもいいじゃないか」(p.97)もあり,現今,実験住宅で散見される提案も載っています。

 

これらの提案から30年の歳月が流れました。書名でもある「なぜトイレにドアがあるのだろう」は,一般化しなかったように思いますが,5つのシーンの内の幾つかは,普及したり,後に人気商品となったものの今では消えた商品もあります。

昭和からの提案書,時を経て,読むのも愉しいものです。

 

『なぜトイレにドアがあるんだろう』

(TOTOアクア-ヒューマニア ’87プロジェクトチーム,現代書林,1987年)1100円(当時,消費税は未導入)

 

[追伸]

30年前に企画された生活提案,現今の生活シーンは遠い未来だったはずですが,私たちは其処に居ます。当時の生活スタイルからは想像すらできなかったシーンに浸っています。

今の大学生層からすると「えっ,嘘」と思われるでしょうが,本書の舞台である30年前(昭和62年)── 日常使いとしてのパソコンはなかったし,携帯電話なんて概念すらありません。ですから,トイレに「電話を置いた」(p.119)などの表現,今の学生なら「スマホ持って,トイレに行けば済むじゃん」となるでしょうね。

 

また,プロジェクト・スタッフの働き方の表現も,会社が出版した本として「会社が強制したわけでもないのに,たびたび徹夜するものがいる。女性デザイナーでもほとんど終電まで仕事をしていく」(p.184)── 当時,トレンドとなりつつあった「スーパービジネスマン」を賞賛,また男女雇用均等の考え方はなく女性と男性の働き方を分けて述べています(「男女雇用均等法」の施行は1986年)。

 

リアル読者だった20歳台の私も,30年の時を経て,あっ! という間にアラ還。未来から現今を眺めたら,またまた違和感を感じることでしょうね。30年前「パソコンで,こうしてブログを書き,アップする」(← 当時なら意味不明語でしょう)なんて,想像すらできなかったシーンです。

 

そうそう,この頃は,消費税もなかったな。

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