富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
186:『9坪の家』 20:56
9坪の家

 

●「小さいことが,ポイント」の家

購入が2001年10月ですので,書棚に「積ん読」こと14年,やっと今の自分の波長と同期化したようで,この秋に読み終えたところです。ブログも超久しぶりの投稿です。

 

都庁の隣・新宿パークタワーに「リビングデザインセンターOZONE」なる住宅の博物館のようなショールームがあります。OZONEの展覧会『柱展』(1999年1〜2月)で再現されたのが,建築家・増沢 洵氏(1925〜1990年)が「最小限住居」を提唱し,実践した自邸(1952年)の「柱と梁」。

「本当にその状態は美しかった」(p.3)らしく,展覧会の担当者(キューレター)だった萩原 修氏が,会期中に「ぼくは良からぬことを考えてしまった」(p.3)ところからストーリーは始まります。

会期が終わったら捨てる運命の柱梁を引き取って,自分の家をつくってみよう,この家づくりストーリーが本書です。執筆当時(1999年),萩原氏37歳,かみさん37歳,子どもはスミレ8歳とアオイ6歳,家族4人の住まいです。

書名の「9坪」とは3間×3間(1間=約1.8m)の建坪を指し,具体的には1階が9坪,2階が6坪の床面積15坪(要は約50平方m)で「小さいことが,ポイント」(p.20)の家です。

 

● 増沢洵氏(1925〜1990)の自邸「最小限住居」

OZONEは住宅に関する興味深い企画展を開催しており,私も鑑賞の目的だけに上京したこともあります(「柱展」は見ていませんが)。『柱展』に増沢邸の柱と梁の再現展示が決定したのは会期前3か月だったようで,萩原氏は増沢 洵氏の住宅思想を咀嚼,オープニングレセプションの時に「まさか,自分が引き取ることになるとは,夢にも思わなかった」(p.73)ほど,展覧会の設営に没頭していた様子が文章から窺えます(この様子は第2章)。

柱梁を引き取ることになった萩原氏ですが,何と問題は『柱展』が会期を終えるまで「あと1ヵ月で土地を見つけなければ,何も始まらないのだ」(p.96)。そう,萩原氏は,土地が無いにも関わらず,再現・増沢邸の柱と梁,そして増沢氏の住宅思想に惚れ込んだのでした。

「土地はどうやって探したらいいのか。学校でも家でも,土地の探し方については教えてくれなかった」(p.100)──  確かに,そうですよね。契約に至るまでの悪戦苦闘ぶりと,初めて組む銀行の住宅ローンの体験談が第4章と5章です。「なんだか,とても疲れたが,いろいろ勉強にもなった」(p.148)。

 

● 生活と住まいのおりあい

当初「原形である増沢さんの自邸の良さを学びながら,生かしながら,ぼくら家族4人が住む家として,現代風に再現すればいのだ」(p.6)と思っていたようですが,設計の段階で改めて『生活と住まいのおりあい』(p.178)ってなんだろう? と多面的に分析した哲学が,本書の後半を占めています。

今でこそシンプルライフが謳われていますが,16年も前に「あってあたりまえのモノも,自分たちの生活に本当に必要かと疑ってみる必要があるのかもしれない」(p.196)と,とても先駆的な住宅哲学が書かれています(第6〜最終の9章)。

 

竣工は1999年10月,もう16年が経つのですね。出版(2000年)から15年を経ての私の今回の読書は,萩原氏の自邸ストーリーなだけに「今のスタイリングは?」をイメージしての時間でした。「お金もないせいもあるが,家を建てた残りの土地は,しばらく何もしないことにした」(p.245)当時の土だけの庭にも,木々が茂っていることでしょう。「積ん読」は時として,時空を超える事ができるのですね。

 

『9坪の家』(萩原 修,廣済堂,2000年)1400円(税別)

  
[追伸]
書籍のジャケットには「SUMIREAOIHOUSE」とあしらわれています(写真では帯の直上)。「萩原邸じゃつまらない。平成の最小限住居というのもあかぬけない。つくろうとする家は,子供が育つ家でもあるわけで,子供の名前をつけたらどうかと考えた」(p.95)。
書かれた時(1999年)から,早16年が経っています。
スミレちゃんもアオイちゃんも,それぞれ25歳と23歳,萩原氏も奥様も54歳になっており,私と変わらない世代です。2015年の今,萩原さんちでは,SUMIREAOIHOUSEで,どんな生活を送っているのでしょうか。案外,夫婦二人だけの生活になっているのかもしれません。少なくとも近い将来は,確実にそうなるでしょう。子育て期に建てたものの「広くすることが快適ではないことに気づきさえすれば。そのままで充分に,気持ちの良い空間なのだ」(p.174)。きっと今も49.57平方mの住みやすい広さを満喫していることでしょう。
| 建築・形態論 | - | - | posted by tomiyama - -
<< NEW | TOP | OLD>>