富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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178:『捨てる女』 18:45
178:内澤旬子『捨てる女』

● 断捨離
「断捨離」は,今や提唱者やましたひでこ氏の登録商標となっているようですが,この『捨てる女』── イラストルポライター内澤旬子氏の「なんでも貰う拾う集める貯める暮らしから,捨て暮らしに一転した私の人生」(p.35)を綴った断捨離の実践エッセイです。
内澤さんといえば『印刷に恋して』(blog No.22)では魅力的な挿絵を担当,私の中で,すぐにイラストの画面が思い出されるほど印象深い方です。
捨てまくりの着火点は2007年だとか。なにもかも捨てられない,父親譲りとも思われる体質が,作者が「ホルモン療法ののぼせ機」(p.72)と記す癌の治療で「ごちゃごちゃしたところ,風通しの悪い日陰,地下などにいると,発作とまではいかなくても,いやーな感じに襲われ,息苦しくなってしまった」(p.21)のが行動の転機。
以前に紹介した『わたしのウチには,なんにもない』(blog No.175)での契機は東北大震災でしたが,捨てまくりには,(不謹慎な言い方ですが)外圧は不可欠なのかもしれません。

● トイレットペーパーに頼る生活も捨てた作者
人間,捨てる事まで考えるのは苦手です。作者は「そもそも放射性廃棄物の処理の仕方も考えずに,なんでこんなもん(原発)をボンボコ作っちまったのか。(中略)後先考えないにもほどがあるぞ,人類」(p.178)と。
作者の断捨離の実践例は,現代文化の諸処にも及びます。震災を機に買い占めでムカツいたトイレットペーパー ──「こちとらおまえなんぞいなくとも,ちいとも困らんわいっ」(p.142),と「『尻を紙でぬぐう』という習慣をひとりでうち捨てる決心」を。原発事故を起こした「東電に払う電気代を減らしたい一心」(p.140)もあり,ウォシュレット(一般化してますが正確にはTOTOの商品名)ではない解決策を披露。各国のトイレ事情を取材したルポライターならではです。
作者の断捨離は,モノというより精神面のリフレッシュ描写が多彩です。

内澤旬子90pix
● 自称「投げ捨て展覧会」
後半,やっとモノ系の話が登場します。
本は増え続けるもので一向に減らないものです。作者の場合,さらに「仕事をして生きていくだけで増え続けるイラスト原画問題」(p.196)もあったようです。はじめのうちは雑誌に載ったイラスト原画はうれしくてファイリング,二十年以上すると「こいつら一生とっておいてどうすんのかなあ」(p.195)の心境に。
「どうにもならない過去の原画とずっとこの先も一緒にいる苦痛」(p.218)からの解放策として「本当にいいの?」の声を振り切り
,企画されたのは凄い量の「イラスト原画展+そのまま即売会」,ついでの蒐集本の大放出 ── この展覧会情報私も知っていれば素敵なイラスト原画を買ったのに・・・と,残念です。
イラストルポライターの本にしては,今回イラストが少なめですが,展覧会のポスター(クリック拡大可 →)が掲載されていました。展示会の様子はブログ「内澤旬子 空礫絵日記」にもアップされています。

『捨てる女』(内澤旬子,本の雑誌社,2013年)1600円
[追伸]
本書はエッセイですので,指南書のように首尾一貫しないところが面白いところです。総245頁の最後の20頁で,あれれ! 締め括りが想定外ではありませんか。
最終章に至っては「さらば捨て暮らし」と来ました。「あとがき」の冒頭は,何と「それにしても,どうかしていた」のフレーズで始まるのです。
乳癌のホルモン療法後の「捨て暮らし」スタートは「死に支度だったのか,それとも再生のための儀式だったのか」(p.232)と思い返すほど元気になった作者の6年後の今,「生活がこざっつぱりすればするほど,なぜだろう寂しくなってきてしまった」(p.229)のですから,あれれ! ですよ。先の「投げ捨て展覧会」後には早くも「すっきりしゃっきりどころかガックリしてしまった」(p.222)のです作者は・・・。
憧れはありますが,人間たる者,断捨離って,やはり精神衛生上は無理なんだ! と悟る読者の私でした。

本書は『本の雑誌』での連載(2010年5月号〜2013年8月号)がベースとなっています。軽快な筆致は,この雑誌の共通項です。病後の記述にしても「夏で薄着だし? ってことで,べろーんとおっぱいをみんなに披露しちまった」(p.114)とはアッケラカン過ぎますよ。それどころか内澤さん,性転換手術をした女性(元 男性)とナニを見せ合ったとか描写してしまう,もうぶったまげの人です。
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