富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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177:『検索バカ』 16:00

検索バカ

 

● クウキ読みの日常=検索

書名の『検索バカ』からして,当初は「思考をスルーして検索する」(p.24)行為をレポート・論文作成と思い込んでいる検索バカ学生の実態を公開した内容と思っていました。この実態も指摘してはいます。
事態はもっと深刻で,現在の私たちの行動様式そのもが「クウキ読みの日常」(p.5,p.88,p.205など随所)と化す『検索』になっている,と警鐘を鳴らす中身でした。

作者・芥川賞作家の藤原智美氏の指摘する「クウキ」は,効率に惑わされた日常の生活感覚として,無意識に私たちの「指向や行動の重要な柱」(p.35)にまで成長しているようです。

 

● 空気とクウキの違い

確かに「空気を読む」仕草は戦時中も,昭和の経済成長期の団地住まいにも在った訳ですが,そこでの「空気」は,共通の認識「言い訳の言葉」(p.46)として通用していました。タテマエをタテマエとして納める社会ですね。

バラエティ番組でも,計算ずくで「『クウキを読めない』役を懸命に演じる」(p.58)キャラ芸人の技があります。しかしリアル社会での「クウキに支配される日常」化は,今や私たち自らの「思考の自由」の放棄を進行させているのではないか,と。

作者は便利に使われる「コミュニケーション能力」を多用する社会も疑問視しています。

就職試験のグループ討議では「全体をまとめて着地させられる。場をつくれる人,まとめ役」(p.159)として司会役が認められると思い込んでいるクウキもその一つと指摘。

 

● クウキが支配する帝国の恐ろしさ

今や安易に発せられる「クウキ読めよ!」の暴走は,作者の言う「『鞘(さや)を失った』言葉」(p.170)であり,クウキの恐ろしさは「正当,不当,正義,不義とは無関係に物事を進行させる」(p.101)魔力が潜む点を,私たちはしっかりと認識したい!

場のクウキを読んで無自覚に自分を合わせてしまう私たちの日常。作者の言葉を借りるなら「クウキが支配する帝国」(p.38)です。

2014年の現段階では「政府批判をしたからといって,すぐに拘束されたり弾圧されたりということはありません」(p.152)が,ひょっとしたら,昨今のキナ臭い「世論」も「クウキ読みの日常」が醸成している,と言えるのではないでしょうか。

作者は,最終ページに「(前略)クウキ読みさえできれば,この世の中,うまく渡っていけるかのような昨今ですが,はたしてそうでしょうか? というのがこの本のテーマになっています」(p.229)と締めています。

 

『検索バカ』(藤原智美,朝日新書,2008年)740円

 

[追伸]

本文に就職試験でのコミュニケーション能力の箇所を紹介しましたが,昨日,ちょうどweb(J・SPA!)の記事「みんな『コミュニケーション能力』を気にしすぎている」の中に興味深い一文を見つけました。

「『コミュ障』などの言葉が安易に使われる風潮もあるなか,とにかく『コミュ力』さえ強化すれば,就活はうまくいく……という風潮さえ感じられる。だが,この『コミュ力』について,違和感を覚えると語るのは人材コンサルタントの常見陽平氏だ」。常見氏は「コミュ力は大事ですが,それよりは,モノを考える力だったり,へこたれないタフさのほうが,仕事ではずっと重要なのですけどね」。

藤原氏とほとんど同じメッセージを常見氏が送っている点に注目!

確かな真実ですが『検索バカ』に出てくる「クウキ読みの日常」にあっては,これを読んだ就活生,下手すると,今のコミュニケーション能力重視の傾向から,今度は「『へこたれないタフさ』を演じる『検索バカ』」になるかも・・・という危惧を持つのは私だけ・・・。

今回のブログから,拾い読みできるように文章に小見出しを付けることにしました。

 

[その後の追伸]

就職活動での「検索バカ」の実態を描いたアニメ作品で,ネット上で話題となっている『就職狂想曲(吉田まほ,東京藝大大学院 修了制作,2012年)をYoutubeよりシェアしておきます。

 

[更に追伸]

安易に「コミュニケーション力」を使い,「思考をスルー」してきた就活生の再現VTR『残念な就活生』より。

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