富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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176:『「見える化」勉強法』 22:41

176:「見える化」勉強法

 

作者の遠藤 功氏はコンサルティング会社を経て,早稲田大学ビジネススクール(MBA)教授,この『「見える化」勉強法』も,大学院に学ぶ社会人経験者へ向けての語りかけです。サブタイトルの「現場から発想する思考術&トレーニング」が内容。

 

頭と体の鍛錬として,アウトプットを生み出す勉強を5つを挙げています(p.102-113) ──

1) 書き物にして発信(一冊の本にまとめる,雑誌の記事に投稿,学術論文に挑戦)

2) ビジネスに直結するアウトプット(ビジネスプランや新規事業の企画書にチャレンジ)

3) 多くの人の前で「話す場」を積極的に設ける(社外で講演,社内の企画会議でプレゼン)

4) 人に「教える場」を経験(相手の興味やレベルを考えながら話を進める講師)

5)「資格」を取る(ビジネススクールのMBA=経営学修士,など)

 

MBAを目指すのは30歳台前半の方だと思いますが,若いビジネスパーソンにとって上記の内(1〜4)は,どれもハードルの高さを感じることでしょう。読者の私も,40歳台前半まで会社勤めをしていましたが,30歳そこそこでは,上記の何れにも該当がありませんでした。その手だてすら分かりませんでした。

そんな風だった私が,今は学生を教えているのですから,本書の示唆は,そのまま私自身の30歳台〜40歳前半の回想のような感じです。私の場合,職種上とくに(2)の機会に恵まれた,と感謝しています。(2)をベースに,(3)と(1)が勝手に連鎖して広がっていきました。社会人大学院では,初めて(1)にチャレンジする機会を持ちました。

 

176:「見える化」勉強法(中身)本書は,Part 1〜Part 3から成ります。

Part 1は「じっくり観る,しつこく観る」ことでの「現場センサー」感度の磨き方で,ビジネスのすべてに共通する基礎編です。

Part 2〜3こそが,遠藤氏がビジネス上で築いてきたトレーニング方法です。

1)自分のメッセージを「言語化」できる能力開発・・・思考は「書いたもの」に凝縮されて表れる

2)ノートで思考を「見える化」する・・・「思考の欠片(かけら)」→「思考の上書き」へ

3)数多くの経験を積んで「引き出し」を広げる意識

 

当たり前と言えばそれまでですが,作者の実践例の公開は臨場感があります。とくに

写真によるアウトプットのプロセス公開は,先達の知的生産の技術を垣間みる思いでした。

MBAを目指す社会人向けですから,ビジネス経験の少ない20歳台では,やや共鳴するシーンは少ないとは思います。30歳台前半のビジネスパーソンが精読し,意識・実践して欲しい内容でした。必ずや,経験の意識的な積み重ねは,後々何らかの成果を築きます。

会社勤めをしていた私ですが,(4)を日々体験できる大学に職を移したのは40歳台になってからです。

 

『「見える化」勉強法』(遠藤 功,日本能率協会マネジメントセンター,2010年)1500円

 

[追伸]

現在,ビジネスパーソンではない私が,なぜ若者向けのビジネス啓蒙書を読んだのか? ── 実は,企画プロセスを教えている授業「デザイン実技 ll 」(大学2年生) の教師勉強用として,鞄に入れて持ち歩いたり,枕元に置いていた本の一つです。

授業の展開とは,前述(4)に相当するアウトウットです。その際,自分の思考の筋に,他者の見方を絡めるには,並行した読書からの収穫は貴重です。ボワッとした概念を,他者の「書き物」からヒントを得たり,一方,自分の思考とは逆の立ち位置からの観点も捉えられます。

 

今やインターネットは便利な情報ソースです。授業「デザイン実技 ll 」の中で,私は「企画での現状観察はインターネット禁止,フィールドワーク(踏査)を!」と展開してきましたが,学生の反応は「踏査は自分の眼で確かめられるが,情報量が少なくて困る」。

本書では,何と回答のベストアンサーとして「『現場現物』を実践することによって,質の高い一次情報に接することはできますが,そこで得られるものは,『断片的な事実』ばかりです。(中略)私の経験から言うと,最初は断片的であっても,そこを入り口としてやがて色々なことが見えてくるのです」(p.41-42)と,先回りして分かりやすい言葉で案内。

私は追加して「課題がぼんやりしていた企画の初期段階でしたら雑報も拾ったでしょうが,やがて課題が見えてきた段階でなら,焦点を絞った情報が集められる。その時ならインターネットからの情報でも千里眼が発揮できます」と解説しました。先週の話です。

 

本を読むと,本当にタイムリーに,求めている情報が得られるものですが,企画と同様,読者側に敏感な受信アンテナが張られているためでしょう。

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