富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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172:『蔵書の苦しみ』 14:04
蔵書の苦しみ

書名を思わず『読書の愉しみ』と読み間違えそうです。
古本屋さんに買ってもらったり,とうとう「一人古本市」を開いたり,ざっと約2万冊,いや3万冊ぐらいあるのかもしれない蔵書を抱える作者・岡崎武志氏の「蔵書の苦しみ」からの少しばかりのダイエットを綴った7月末の新刊です。
「整理術うんぬんを語れるのは,五千冊ぐらいまでの蔵書の場合だろう」(p.23),仕事をするとき「活きるのは,手の届く範囲に置かれた本なのだ」(p.58)と語る岡崎氏なのですが,3万冊は「年に一千冊の本を触れるなり,読むなり,一部を確かめたりしたとしても,すべてを触り終わるには三十年かかる」(p.27)とぼやく

なぜこうなるのか ── これは第十一話のタイトルでもあるのですが,要するに「男は集める生き物」(P.164)だからと分析。「消しゴムのちぎれた切れっぱし,道で拾ったビール瓶の王冠,壊れた玩具の一部分などゴミに近いものであっても,それを大事に思い,捨てずに取っておくというところに,すでに『オトコ』が芽生えている」(P.171-172)。

登場する著名人や歴史上の人物の蔵書話も勉強にはなりますが,臨場感があるのは,類を呼ぶ作者の友人のエピソードでしょう。
1万5千冊の蔵書のために,理想の建築家を探し,古い家を立て替え「本の栖(すみか)」の家を実現した知人Nさんの話。
自分がこれまでに溜め込んできた蔵書の有効活用として,定年後に古本屋経営を歩んでいるTさん。
居住空間が本に浸食され,ほとほと困り果てた人が登場する『山からお宝』(けものみち社)にカラーで登場する図書館勤務のSさんは結婚を機にダイエット,図書館で借りて済む本と所蔵する本の見極め眼が付いた話。
古書店の規模では買い切れなかった段ボール200箱以上の蔵書を持つ出版社勤務(定年後の現在は出版社を経営)のHさん。お寺での1万冊(3トン車で二往復)の破天荒な「一人古本市(4日間)」で95%を消化(この成功を真似たのが,ギャラリーを借りた作者の「一人古本市」,3日間で段ボール50箱・2千500〜3千冊を減らした)。

リアルな書籍の話だけではありません。映画『遥かなる山の呼び声』(山田洋次 監督,1980)や『ジョゼと虎と魚たち』(犬童一心 監督,2003),『いつか読書する日』(緒方 明 監督,2005),『愛妻物語』(新藤兼人 監督,1951)やTV映画『ビブリア古書堂の事件手帖』(剛力彩芽 主演,2013)観る映像として,本や本棚が写っている光景の描写は,この本を著す作者ならではの観察眼!

私は頁を進んだり戻ったりと,本を読むのが遅いのですが,文体が軽やかでスラスラと読み終えることができました。

『蔵書の苦しみ』(岡崎武志,光文社新書,2013年)780円
[追伸]
「男は集める生き物」── 確かにそうだろうな,と確信します。
私も,小さい時から様々なガラクタを蒐集してきたな! と思います。
今年の前半は,コカコーラの「Share a Coke and a Song-コカ・コーラ」のキャンペーン・ペットボトル集めです。 完全主義者ではないので,1957年〜2013年の全てを集めるほどには執着しませんでしたが・・・。
コカコーラの容器は,このキャンペーンに限らず,何となく保管していて,この20年間に,ざっと200種類くらい,しかも色んな所に散在,さて何に使うのやら,自分でも意義を見いだせないでいます。

蔵書の方は,岡崎氏の言う「整理術うんぬんを語れるのは,五千冊くらいまでの蔵書の場合だろう」のラインで,私としては『蔵書の苦しみ』病にはかかっていません。が,「良書」というより「雑学」類の書籍,古書店では売れないし,今後も少しずつ確実に増えていくことでしょう。
でも,まだまだ許容,作者にくらべれば・・・。
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