154:『40歳からの知的生産術』 | 14:52 |
大学教授の谷岡氏が解説する「知的生産」実践例は,研究の著作活動が中心(渡部昇一氏の場合も同様)ですから,若干ビジネスパーソンの知的生産とは異なる波長の節もあるだろうと思います。私の興味は ── ものごと,こういう角度から考えることもできるんだ! ── という谷岡氏の知的生産を支えるメンタル面での記述でした。こららの箇所は「40歳からの」でもなく,学生層にも送りたいメッセージと思われます。
興味深い「優先順位」に関してのフレーズを幾つか取り出すと ──
・(重要なことを先送りするのは)そのことをやらない方向に力学が働くから。(p.76)
・(学生生活で)アルバイトの時間の都合で,授業をスキップするのは,授業料の計算をすれば,とてもできない行動パターン。(p.91)
・(長期的視点でものを見る方が良いとはいえ)長期的視点の意見は耳に痛く,短期的なそれは耳に快い。福祉と国の借金においても,多くの人の賛同を得がちなのは,今日のおかず(短期)の政策。・・・これも可能な範囲で,未来,現在,過去の順に重要視してほしい。(p.183)
── という名言です。
作者の私見が強く反映されていて,個人的には,おや!? と思う記述も多かったのですが,本書の最期の方にあった「世の中はもともと不公平」の項目は,凄く納得させられました。
「世の中には頭にくることが嬉しいことの倍くらいあります。たとえば働き始めるとイヤな上司にいじわるをされることもあるだろう。同僚や部下にもズルイタイプの人がいて,損をさせられるかもしれない。そんな時はこう考えなさい,『この人(イヤなヤツ)と人生を取り替えたいか』と。おそらく今日卒業する人は皆こう考えるはずです,『私は私で良かった』と(後略)」。(p.198)
作者が学長を務める大学の卒業式で話した内容だそうです(やはり40歳からでなくても通用しますね)。
本書では,こう続きます。「この人と人生を取り替えてみたい」と思ったのは,座談会での梅棹忠夫先生に感動した時,だと。
『40歳からの知的生産術』(谷岡一郎,ちくま新書,2011年)740円