富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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154:『40歳からの知的生産術』 14:52
40歳からの知的生産術

作者・谷岡一郎氏(大阪商業大学 学長)は,名著『知的生活の方法』(渡部昇一,講談社現代新書,1976年)と,さらにその下敷きとなっている『知的生産の技術』(梅棹忠夫,岩波新書,1969年
)(blog No.01)から,若い頃にたいへん刺激を受けたことが本文から窺えます。「知的生産」というキーワードは,40年ほど昔の梅棹忠夫氏の造語ですが,今やあらゆるプロジェクト活動の基本中の基本となる技術を指します。

大学教授の谷岡氏が解説する「知的生産」実践例は,研究の著作活動が中心(渡部昇一氏の場合も同様)ですから,若干ビジネスパーソンの知的生産とは異なる波長の節もあるだろうと思います。私の興味は ── ものごと,こういう角度から考えることもできるんだ! ── という谷岡氏の知的生産を支えるメンタル面での記述でした。こららの箇所は「40歳からの」でもなく,学生層にも送りたいメッセージと思われます。

興味深い「優先順位」に関してのフレーズを幾つか取り出すと ── 
・(重要なことを先送りするのは)そのことをやらない方向に力学が働くから。(p.76)
・(学生生活で)アルバイトの時間の都合で,授業をスキップするのは,授業料の計算をすれば,とてもできない行動パターン。(p.91)
・(長期的視点でものを見る方が良いとはいえ)長期的視点の意見は耳に痛く,短期的なそれは耳に快い。福祉と国の借金においても,多くの人の賛同を得がちなのは,今日のおかず(短期)の政策。・・・これも可能な範囲で,未来,現在,過去の順に重要視してほしい。(p.183)
── という名言です。

作者の私見が強く反映されていて,個人的には,おや!? と思う記述も多かったのですが,本書の最期の方にあった「世の中はもともと不公平」の項目は,凄く納得させられました。
「世の中には頭にくることが嬉しいことの倍くらいあります。たとえば働き始めるとイヤな上司にいじわるをされることもあるだろう。同僚や部下にもズルイタイプの人がいて,損をさせられるかもしれない。そんな時はこう考えなさい,『この人(イヤなヤツ)と人生を取り替えたいか』と。おそらく今日卒業する人は皆こう考えるはずです,『私は私で良かった』と(後略)」。(p.198)
作者が学長を務める大学の卒業式で話した内容だそうです(やはり40歳からでなくても通用しますね)。
本書では,こう続きます。「この人と人生を取り替えてみたい」と思ったのは,座談会での梅棹忠夫先生に感動した時,だと。

『40歳からの知的生産術』(谷岡一郎,ちくま新書,2011年)740円
[追伸]
作者・谷岡氏が尊敬する梅棹忠夫氏(1920〜2010年)に関し,国立民族学博物館で「ウメサオタダオ展」が開催(2011.3/10〜6/14)される情報を,一昨日「知的生産の技術研究会」からの郵便物で知りました。影響を受けた多くの人たちが,当博物館(初代館長)の磁力に引き寄せられて足を運ぶと思います。博物館は吹田・千里万博公園内にあります。
「名著『知的生産の技術』ができるまでの,カード,こざね(メモの連なり),直筆原稿など,すべてを初公開します」(チラシより)。
私も知的生産の技術の舞台裏を観察しに出かけるとします。

ウメサオタダオ展(表ウメサオタダオ展(裏
(両画面ともクリック拡大可)

[その後の追伸]
「ウメサオタダオ展」の視察レポートは(blog 番外編22)に書きました。
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