153:『ポートフォリオの教科書』 | 19:07 |
企業への就職試験では,応募者のプレゼンテーション能力を診る重要なツールとしてポートフォリオの提出が課されている事も多いようです。
安易に「透明ファイルに作品写真を集めたアルバム」と捉えている人が実に多いのですが,ポートフォリオとは作品の品質は勿論ですが,それと同等以上に「自分の作ったものを的確に説明できる力量をアピールする手だて」の位置づけです。
勤務校では,3年次後期で始まる美術専攻のゼミ(いわゆる研究室配属でのデザイン授業)のテーマに「ポートフォリオづくり」を課すことが多いです。ところが着手時は「作品写真のアルバム」からなかなか抜け出せない。「作品のメタ情報を整理」する「仕立て」のキリクチを掴む重要性が看過されがちです。
この度,ポートフォリオ・コンセプトの指南書を見つけました。
書名には「クリエイティブ業界に就職するための」と長いショルダーが付いていますが,ポートフォリオが何たる物か! を多くの若者へ向けて分かりやすく語っています。勤務校は教員養成系の大学ですから,企業に就職するための準備としてよりも,大学生活の学びの足跡を整理する上でのポートフォリオづくりとして取組む価値があると考えています。
基礎知識にはじまり,20余点のポートフォリオ事例,業界別やコンセプト別,ページ建てなどのグラフィック紹介は,見る分にも楽しい構成です。
大学ゼミの指定「教科書」とするにはPOP過ぎる感じですが,ポートフォリオを初心者に解説するには的確すぎるほどです。目下,ゼミの学生たちは,本書を参考に「本当のポートフォリオ」づくりをしています。課題提出の期限は3月初めですが,この本の威力がどこまで浸透するか! 楽しみです。
『クリエイティブ業界に就職するための ポートフォリオの教科書』
(ワークスコーポレーション別冊・書籍編集部 編,ワークスコーポレーション,2009年)1900円
[追伸]
本文の冒頭に,大学院の入試で本当の「ポートフォリオ」を発見することは稀,と書きましたが,その反省から,昨年度(2009年度 後期)は大学院の授業でも「ポートフォリオづくり」を初めて採り入れました。
大学院の学生に聞くと,入試前にポートフォリオの意味を調べたけどあまり分からなくて,結局「作品写真を貼ったアルバム」と解釈したとの由。
半期をかけて完成したポートフォリオは,大学院だけあって見事なプレゼンテーションの作品もありました。
下記写真での紹介事例は,テキスタイルを学んでいる学生のポートフォリオです。ファイルのカヴァーは自作の染織作品で包まれ,全体を通し作品づくりに対する姿勢が視覚的に伝わる秀作でした。
大学院学生作品 2009年度後期(クリック拡大可)