富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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152:『大学生のための知的勉強術』 19:02
151:大学生のための知的勉強法

社会人28年の私ですが,大学生や受験生向けに書かれた『大学生のための知的勉強術』を読みました。作者・松野 弘氏が説く「大学は『知的道場』」の意義を改めて認識しています。インテリジェンス(知性)という言葉が頻繁に出てきます。
大学生当時の私はというと,本書が力説する ──
(1)情報や知識を検索するための「知る/調べる」技法
(2)授業を通して専門的な知識を「聴く」技法
(3)多角的なものの見方や自分の意見の表明の仕方を学ぶ,「討議する」技法
── を学ぶ最高の環境が大学である,なんて知ろうともしないままで20歳代の前半を過ごしてしまいました。
今考えると随分もったいないことをしたものです。作者も「高い授業料のもとをとる!」の項で曰く「一昔前まで,大学はそれまでのきびしい受験勉強から解放されて,社会人になるまでの一休みの時期,『モラトリアム』(猶予期間)と考えられてきました。(中略)皆さんもそんな大学生活を夢見ているかもしれません」(p.49)と。

実は(1)(2)の段階は知的インフラ(基盤)にすぎない,大学生活で体得すべきは(3)の「書く・発表する・討議する」知的出力である,と松野氏。
本書の第3章が(1)と(2)の解説でインテリジェンス習得の前座,神髄の(3)は第4章となります。知的基盤が備わった大学3年生以上でしたら,いきなり第4章を読み込んでも実感が掴めると思います(第1〜2章は大学生活へのオリエンテーション,第5〜6章は付随的な読み物です)。

大学で課されているレポートの作成ですが,うわっ面の一大事として4年間に繰り返されるノルマではなく「社会人として活動する際の『思考回路』を明確化するための訓練」(p.117)と切り替えると,積み重ねることで磨かれる知性の一つです。
「大学に入るまで,本格的なレポート文や論文などを書いたことがある人はほとんどいないでしょう」(p.161)が「大学生活における知的な集大成として『卒業論文』があります」(p.116)。卒論の作成に関し,次のアドバイスは素敵で,励みになります。
「卒業論文を執筆するというのは,あくまで大学における教育課程の一部として捉えがちですが,論文を書くことは,(中略)思考的なマネジメント能力(思考の管理)とともにタイムマネジメント能力(時間の管理)も問われるものです。時間的な制約のなかで,また,就職活動を含めた不確定な要素も多いなかで,その時間をどう活用し,執筆していくかは,効果的な仕事をしていくという意味で社会に出てからも求められる大事な能力です」(p.160)。 

私の勤務する愛知教育大学でも,今月末に卒業研究の最終提出日を迎えます。大学に着任来この8年間で38名のゼミ生の足跡を診てきました。

『大学生のための知的勉強術』(松野 弘,講談社現代新書,2010年)740円
[追伸]
本書は,大学生のための知的勉強術として共鳴する記述はとても多いのですが,個人的には反論のある箇所もあります。大学教授陣の件です。
「民間企業で働く研究者でも,論文や専門知識が学会等で認められれば,大学の判断次第で大学教員になれる(中略)学問的な教育・研究活動を経験していないために,学生の教育・研究指導等に不安があることもあるという点で注意が必要です」(p.45)。
「1985年の大学設置基準改正によって,実務経験を大学の講義に活かしてもらうために,大学教員に迎えられるケース(いわゆる社会人教員)も多くみられるようになりました。これは,大学教員の教育.研究面における学問的な質の確保という点では社会の論議の対象となっています」(p.63)。
読者である私は,企業勤務20年のプロセスを経て大学教員になったのですが「学生の教育・研究指導活動に不安があることもある」のはどのような経歴でも言えることではないでしょうか,ね。
本書の中で,松野氏自身が書いています「本で読んだことを鵜呑みにしてはならない(中略)読書で得た情報を吟味し,取捨選択し,そして疑わなければなりません。つまり,批判的な視点から読書をするということになります」と(p.225)。
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