富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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134:『無限を求めて ── エッシャー,自作を語る』 16:32
『エッシャー,自作を語る』
勤務校の担当授業で「平面の正則分割」という数学と美術の融合みたいな実習を今年度前期に試みました。
何やら難しそうな響きの「平面の正則分割」ですが,要は,一つまたは幾つかの形状を繰り返し組合せて平面を隙間なく埋め尽くすタイル貼りのことです。
ん〜,コトバにすると,かえってややこしい! ならばM・C・エッシャー(Escher:1898〜1972年)の作品を想い浮かべてください。
え,え〜,エッシャー? 名前は知らなくても,爬虫類とかがピースになった敷き詰めパズルの世界なら,きっと見覚えはあると思います。パズル世界のほか,逆さに水が流れる宮殿の平面作品とか・・・(下記「続きを読む」参照)。「1951年にエッシャーに関する記事がアメリカの有名な新聞に載った」ことで,無名の貧乏画家(版画家)から一挙に人気作家になりました。

目下,この「平面の正則分割」をテーマとした授業展開の実践報告書(→「美術教育における数学からの教材展開 ── エッシャーに挑戦」)を書くために,改めてエッシャーの造形思考を紐解いているところです。その参考文献としているのが,この『無限を求めて ── エッシャー,自作を語る』。
書名の通り,本書はエッシャー自らが綴っています。アメリカに招かれた1964年の講演会でのスピーチ原稿やスライド等も,すべてキチンと遺しています。ヨーロッパからアメリカへ飛んでの講演旅行だったのですが,この講演はエッシャーの体調不良で幻に終わっているようです。
本書(原書,1986年)は,このスピーチ原稿(「実現しなかった講演会」)と,それを基底に発展させたテキスト,また無名時代(1940年代)に内輪の雑誌への寄稿文等で構成されています。これらが図版付きで再録されている貴重な史料です。
発想の源が1936年に「スペインにあるアルハンブラ宮殿の,鮮やかな色彩タイル」であったこと,数日かけてその壁画を模写したことなど,思考の扉となったシーンも教えてくれます。
彼は作品の源流となる数学的な造形をこつこつ研究するとともに,その体系をこうして文章で綴っていますので,エッシャー自身の造形思考プロセスをリアルに追うことができます。

授業展開時は偶然にも『エッシャー展』が名古屋市内で開催されていました。市販本ですが,その会場で私は購入しました。
数学をベースとした造形(数理造形)に興味のある人,または造形をベースとした数学に関心のある人には,かなり読み応えがある本だと思います。


『無限を求めて ── エッシャー,自作を語る』
(M・C・エッシャー,坂根厳夫/訳,朝日選書,1994年)1500円
[追伸]
エッシャー(チラシ自分が研究し,発見し,体得した造形思考を,自家薬籠中のものに留めずにキチンと後世に書き残したエッシャー。
この執筆活動そのものが,造形思考の更なる発展にも繋がっていったのではないか! と思いながら読み進めました。私にとって,内容もさることながら,この姿勢そのものに触れる機会ともなりました。


『迷宮への招待 エッシャー展』 
(松坂屋百貨店 2009 4/29〜5/19)チラシ裏面(クリック拡大可) 






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