富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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131:『缶コーヒー職人 ── その技と心』 14:50
「缶コーヒー職人」再撮影
今では「BOSS」は単品ではなく商品群のブランド名称となり,缶コーヒー自体もレギュラーの代替品でもなく独自の飲み物のポジショニングを得ています。
しかし「サントリーの主戦場じゃないところで戦っている意識,どうせならレギュラーコーヒーを作りたいと思った」という内容の回想があります。缶コーヒーのブランド化を推進したのは1992年誕生のサントリー「BOSS」だったのかもしれません。それ以前は確かに「たかが缶コーヒー」だったような気もします。

舞台は1986年,サントリーの缶コーヒー「WEST」の誕生から始まります。時代は「自動販売機をどんどん投入していくことで,数字はのびるという楽観的な考え」が支配する頃,実際にどの会社の缶コーヒーもみな同じように出荷数を伸ばしていた時代です。
これは後になって誰もが気付くのですが,バブル経済のひと時の恩恵に過ぎませんでした。

「WEST」の見直しから20か月(通常,開発期間は6〜8か月らしい)を要し「BOSS」が発売されたのは1992年5月,その開発ストーリーが本書です。通常,この手のノンフィクションはライターの取材によって書かれるケースが多いのですが,何と作者・高橋謙蔵氏はサントリーの社員(現・飲料開発設計部長)! 
自社商品が生まれるまでのプロジェクトの様子がメンバーの実名とプロフィールとともに,賑やかに飛び出してくる職場「ドラマ」になっています。
かくして後発にもかかわらず,ヘビーユーザー(毎日飲む人)をメインターゲットに据えて開発された「BOSS」の躍進は周知の通り。ネーミングの「BOSS」とは,ヘビーユーザーの代表格である工事現場等で働く男の相棒というコンセプトから見いだされたのだと。「新世界(ムンド・ノーヴォ)」なんてのも検討されたらしい!?

中身開発,宣伝,デザインなど垣根を超えたプロジェクトメンバーも,当初は,それぞれの専門家のエゴから「作品作り」を主張していたものの,やがて到達した共通意識は「サントリーの作品ではなく,お客さんが買いたくなる商品」(p.77)作り。「仕事をしながら学び,成長する面白さを味うわうことができました」(p.90)と,ビジネパーソンとして最高の職場環境に。

コンセプトとは常に進化するユーザー像に対応する生き物です。デヴューから15年にわたるその後の「BOSS」ブランド育成の足跡にも触れており,マーケティング思考の実践的な事例としても学ぶことが多い内容です。


『缶コーヒー職人 ── その技と心』(高橋謙蔵,潮出版社,2007年)1200円
[追伸]
もう8月も下旬になってしまいました。夏が好きな私(「似合わない」って言われますが)にとって,秋に向かうシーズンは寂寥感があります。
本書では,1980年代後半に「自動販売機でのホット飲料の登場で,冬場の売り上げの安定化」(p.22)が確保されたことが紹介されています。そう,自販機で「ホット」表示がされだす9〜10月にもなると,いやでも視覚的に秋を感じてしまいます。

下図は「BOSS』プレミアム・キャンペーンの新聞広告(中日新聞,2003.5/4)より

BOSS新聞広告(中日'030504)
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