富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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165:『会社と仕事を変えるデザインのしかけ』 12:26
165:会社と仕事を変えるデザイン

斜め読みした際は「デザインのしかけ」というタイトルの割には,随分と短期的な話題提供が多いな! と思ったものでした。
でも,読み飛ばしていた「はじめに」をしっかり読むと,もの凄く納得させられました。

そのメッセージとは ──「長期的な視点でデザインを戦略的に取り組むべきだという意見が相当多いはずですが,長期的なことよりも,生きのびるためにまず目先の売上が必要です。その場しのぎに過ぎないと言われるかもしれませんが,その場しのぎをきっちり繰り返して,結果的にデザインを会社に取り込めればいいのです」(「はじめに」要旨)。
会社のデザインの仕掛けとしては,末節に見えがちな,名刺デザインの話や,印刷物の書体の話が何ページも何回も出てくるのは,経営の機会損失を招く残念な会社にならないための作者・中野由仁氏からの重要な警鐘なのです。
激安ショップの経営なら分かるけどプリンター出力のチープな名刺,ペラペラのコピー用紙の商品カタログ,独自ドメインを取得していないホームページ・・・いずれも経費節減がビジネスチャンスを失っている残念な会社の例です。

「まずは無理をせず,目先の利益を確保しながら順々に行う」(p.05)ために,中野氏が挙げているのが ──
(1)
身の回りのデザインから(p.57)です。
更に次の2点が加わります。
(2)料金の安いものから取り掛かる。
(3)時間的に早くできる順に取り込む。
6畳一間の自分の部屋から創業したという中野氏のデザイン観が伝わってきます。

大企業のデザイン戦略を語るのはかっこいいです。でも,数からすると小さな会社や創業したばかりのベンチャー企業こそが社会での大多数を占めます。
本書のサブタイトルにもなっている「残念な会社から,イケてる企業になるためのデザイン戦略」とは,厳しい環境で日々戦っている「小さな会社の経営者,企画や広告担当者の役に立つように,デザインと会社と仕事に取り組んでもらう方法」(「あとがき」より)を綴った具体的な視点集だったのです。

「デザイン戦略」を,難しく難しく考えがちな風潮に,一石を投じる内容だと私は思います。読書の遅い私も一気に読むことができました。

『会社と仕事を変えるデザインのしかけ』(中野由仁,クロスメディア・パブリッシング,2011年)1580円
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125:『デザインで視せる企業価値』 16:58
『デザインで視せる企業』
老舗文具メーカー・デザインフィルの社長・会田一郎氏の著書です。とっても洗練された美しいブックデザインです。
デザインフィルという社名(2007年7月〜)よりも旧社名である社歴60年の「Midori(ミドリ)」の方がお馴染みか。
新しいデザインフィル社の企業理念と企業実践が具体的に書かれているので,社員と取引先へ向けてのメセージととれるほど。生活者にも身近な文房具がテーマですから,わかりやすい「経営論」ともいえます。
とくに第3章は,デザインフィル社の開発文房具が,企業理念の集結の事例として,美しい写真を中心に解説され,文房具好きの読者としては興味深いところです。美しいブックデザインである上に,ページをめくると美しい文房具の写真が目に入ったので,手にした書店ですぐに購入しました。

『デザインで視せる事業』(開発文房具)Design for Communicationの理念に頷く動物型クリップは同社の商品(クリックで拡大可)

内容は,売り上げの7割をキャラクター商品で占めていた同社が「新規キャラクター商品の投入本数を約2年半かけて順次減らし,ターゲット層の異なるデザイン商品に変え」ていった決断と,事業領域のコンセプトを再構築し,その開発商品を生み出すまでの設計図公開です。

作る商品によって企業を発信する姿勢は,今や当たり前ですが,1980年代の日本はそうでもありませんでした。本書にも「企業がデザインでイメージを発信するというと,1980年代にコーポレート・アイデンティティ(CI)が脚光を浴びました。著名なデザイナーが企業ロゴを手がけ,分厚いコーポレートデザイン・マニュアルが作られましたが,一時のブームとして終わってしまった感が否めません」と,経営者の言葉でしっかりと記載されています。

『デザインで視せる企業』(本文)社員の働く環境にも言及し「私自身が多くの時間を設計に割きました」というオフィス空間は,第4〜5章にかけて,これまた美しい写真との構成で紹介。

この本は,チャラチャラした「企業パンフレット」ではない,崇高な「企業パンフレット」にも映ります。私が,この時間に大学生だったならば「入社試験を受けさせてもらいたい企業」だったと思うのです。





『デザインで視せる企業価値』(会田一郎,幻冬社,2009年)1200円
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122:『無印良品のふしぎ』 22:41
122「無印良品のふしぎ」
自社が発行するカタログやPR誌に載せる商品は,基本的に自画自賛! 間違っても,茶化したり,自虐的な解説はしません。
以前,紹介した『無印良品の理由(2008盛夏)』(blog No.90
)も然り。ところが今回の『無印良品のふしぎ』は違います。コピーライターとして無印良品の販売促進に携わっていた鵜久森 徹(うぐもり とおる)氏が,クライアントである良品計画(無印良品を作っている会社)の担当者に「無印良品ってヘンだよね」という失礼な発言が,そもそも発行のイキサツとか。発行所こそ自社ではありませんが,奥付には「特別協力:株式会社良品計画」と。

「売る人が思っていることと,買う人が感じていることがズレて当然。(中略)無印良品に『なんで?』というツッコミを入れてみようと考えた」([あとがき]より)末に,良品計画の多大な協力で出版が実現した一冊です。商品を茶化しつつも,オリジナルの全面協力という不思議な編集体制です。

「無印良品のふしぎ」本文
この不思議ワールドには,70の商品が「作る人の立場」ではなく「買う人の視点」で紹介されています。
どれも興味深い解説ですが,私的には,作者曰く「それにしても切手を貼るところくらいデザインしてもいいと思う」「はがきと言うけど どう見ても無地の紙」の『はがき』(10枚入り105円)。

たまには,頭を柔らかくしてくれる,こんなマーケティングの本を愉しむのも悪くない。そう,何だかんだ茶化しながらも,生活者視点を貫いたマーケティング読本なんです。

『無印良品のふしぎ』(鵜久森 徹,ピエ・ブックス,2006年)1000円
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104:『見えるアイデア ── ヴィジュアル・コミュニケーション・トレーニング塾』 13:15
「見えるアイデア」
デザイン思考トレーニングの教育論です。

広告代理店・電通を経て,金沢美術工芸大学の教授(2003〜2008.3)を勤めた秋草 孝氏(現・大阪成蹊大学 芸術学部 教授)は,デザイン活動を「問題解決のためのクリエーティブ提案力」とし,課題を解決するための「アイデアを生む力はトレーニングすれば必ず手に入る」(p.98)もので,逆に「トレーニングせずにいきなりできる人は一人としていない」(p.167)と力説しています。

秋草氏は「『アイデアは教えられる性質のものではない,自分で努力するものだ』という理由で,学生に努力だけを強いてきたこれまでのデザイン教育は間違っています」(p.87),「美大のデザイン教育を見ると,表現技術に関する授業が中心で,(中略)基礎教育からアイデアのトレーニングが抜け落ちている」(p.258-259)とデザイン教育の問題点を指摘。
その上で,本書では,作者の金沢美術工芸大学での授業実践が紹介されています。発想とは「普段気がつかないことに気づく訓練」(p.152)であり,その積み重ねでレベルアップできると説いています。

これらのことは『デザイン思考の道具箱』(
blog 番外編08,2008 8/7)の随所で語られていた「方法さえ身につければ誰でも創造性を発揮できる」「見慣れた日常生活を他者の目で見ることがデザイン思考の第一歩である」とも同一軌道にあります。デザイン教育の神髄です。

作者は大学専門教育の観点から語っていますが,読者の私が見渡すと小中学校の「図工・美術」でも,「いきなり表現技術」主義は蔓延しているのが実状です。これでは「教科」(教える科目)とはいえませんね。
作者の専門上,ヴィジュアル・コミュニケーション分野の立場から論じていますが,アイデアの基礎トレーニング論として,デザイン全般の共通項ともとれます。
一般書籍の形をとっていますが,この『見えるアイデア ── ヴィジュアル・コミュニケーション・トレーニング論』は,ティーチング・ポートフォリオ(Teaching Portfolio:blog No.103参照)そのものだと思います。

大学のデザイン教育への警鐘ですが,小中学校の先生にも「アイデアを生むトレーニング論」として,ぜひ読んで欲しい内容です。


『見えるアイデア ── ヴィジュアル・コミュニケーション・トレーニング塾』
(秋草 孝,毎日新聞社,2008年)1500円
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101:『ポール・ランド,デザインの授業』 12:53
「ポール・ランド,デザインの授業」(表紙
行きつけではない書店に立ち寄ると,意外で興味深い書籍に出くわすものです。今回は,丸善・名古屋栄店で購入した『ポール・ランド,デザインの授業』です。

あの印象的な「IBM」社のシンボルマーク(1956年制作)の制作者こそ,ポール・ランド氏(1914〜1996年)です。晩年では,Macintoshを追われた後にスティーブ・ジョブスが興した「NeXT」社のシンボルマーク(1993年制作)など,長年にわたって活躍し続けたデザイナーで,教育者でした。
その昔「IBM」は,優れた商品を開発・生産していたにも関わらず,コミュニケーション活動が下手で,優れた商品群をアピールできないでいました。この問題を解決したのが,デザイン最高顧問に迎えられたポール・ランド氏でした。氏は商品から工場環境まで一貫したデザインシステムの発信を図り,IBMは世界的企業へと発展を遂げました。
これが今日の「CI(Corporate Identification)デザイン」の基本となった思考であり,ポール・ランド氏は,その開祖です。

「ポール・ランド,デザインの授業」(本文・赤
この本は,1995年に行われたアリゾナ州立大学でのワークショップの記録がベースになっており,マイケル・クローガー(Michael Kroeger)氏によって編まれたものです。ポール・ランド氏の最晩年のデザイン哲学・デザイン教育論です。この日本語版は出版されたばかり。
主な構成は,[対話1]として「教授陣との講演打合せの内容」,そして[対話2]の「講演での学生との対話」から成ります。講演記録を編集したものですから,そんなにボリュームのある本ではありませんが,故に含蓄のあるキーフレーズの連続です。

学生に「デザインとは関係のしくみである」と説いています。
この意味合いは,直截に本書のポール.ランドの言葉から辿ってください。軽装本ながら,造本も美しく,デザインを学んでいる人なら,きっと手元に置いておきたくなる本です。本文組は,特色の紺と赤だけで印刷されています。


「ポール・ランド,デザインの授業」(本文・紺
『ポール・ランド,デザインの授業』(マイケル・クローガー,BNN新社,2008年)1400円
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100:『The Wings of the Crane : 50 Years of Lufthansa Design』 16:25
『50 Years of Lufthansa Design』ジャケット

Lufthansa CI『50 Years of Lufthansa Design』誌面



    

 






  ルフトハンザ航空のデザインシステムIは,
  ミュンヘンオリンピックのピクトグラムを制作した
  Otl Aicherウルム造形大学教授による

思い返すと日本では,1990年台初頭の一時的な流行現象に過ぎなかったのが,CI(Corporate Identification:視覚デザインによる企業イメージの統禦)ではなかったでしょうか。時はバブル経済期,あらゆる企業がシンボルマーク等を一新したものです。海外では,この一冊の本に集大成されるように,永年に渡り企業イメージをデザインと伴に醸成してきたルフトハンザ航空(ドイツ)のような例もあります。利用したことが無い人(私も)でも,どこかしらでインプットされているお馴染みの紺色に黄色の「Lufthansa」のシンボルマークは,その原型が1962年の導入で,ウルム造形大学(当時)が担当。以降50年近くブランディングデザインの基本として使われています。

本書は,ルフトハンザ航空の機内用食器類・機内インテリア・文房具小物類・制服・広告展開例など,洗練された統一デザインツール類を見ることができます。この50年のデザインの変遷も写真で示されています。指を拭いて誌面の隅っこを触れる感覚でページをめくってしまうほど奇麗な誌面構成です。

「視覚デザインによる企業イメージの統禦」などと理屈では何とでも言えますが,本書に触れると「これをCIと呼ぶんだナ!」と,実感します。
本文はドイツ語と英語なのですが,見とれてしまう写真をベースとしたグラフィック誌です。


『The Wings of the Crane : 50 Years of Lufthansa Design』
(Edition Axel Menges,2005年,取扱:ハックネット http://www.hacknet.tv/ )6930円
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90:『無印良品の理由(2008初夏)』 12:57
無印良品の理由(表紙B6判(12.8×18.2センチ)で角背の仕様

無印良品(p.8-9)
前回で話題にした大学案内ですが,これらが無料化(数年前まで,私立大学は願書とセットし1000円程度で書店で販売されていたんですが・・・)の趨勢に対し,近年,優れたカタログは有料化を辿っています。

この『無印良品の理由(わけ)』も,その一つ。カタログというより,コンセプトブックです。
商品化の「こだわり」(コンセプト)を,美しい写真とともに,使う人の立場で解説してくれています。セレクト商品の掲載ですので,分厚い商品カタログを読むみたいには疲れません。
DMで案内は貰っていたのですが,改めて無印良品の店頭で見つけ購入しました。家具・家電・文房具・衣類・食品など50品がセレクトされています。

私は,文房具なかでも什器類(下の[続きを読む]参照)は,無印良品です。鉄製のゴツイのに対し,重厚感が無いのが逆に魅力です。木製品の持つ愛着とは,また違うテイストです。
プラスチック製品は,無印良品が本格的に登場する前までは,なんだかんだ言っても永らく「代用品」の域から出にくかった素材の位置づけでした。本当は「木」にしたいんだけど「プラスチック」で我慢する,という具合(「高級感のある木目調」なんて表現のプラスチック製って,ありますよね)。
無印良品がズバッと行ったのが「素材の適材適所」の考えではなかったかな,と思います。

随分と是正はされてきたとは思うのですが,ハウスメーカーの「レンガ風外壁材」や,一眼レフカメラの「金属製ボディ風プラスチック」等を見るにつけ「工業製品らしい外壁を主張してくれないかな」とか「プラスチックを主張したボディに」と思ってしまうのは,私だけ!?

そんな理由から,私はプラスチックやアルミニウムの素材感を活かした無印良品の商品が好きなのです。もちろん,手頃な価格は前提です。


『無印良品の理由(2008初夏)』(無印良品,2008年)300円
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78:『絵本をつくる』 20:09
絵本の作り方
絵本の作り方(本文1
五味太郎氏を知らない人でも,カラーインクを使って織りなされる世界は,何度も目にしているはず。「三百数十冊の絵本を作ってきた」と,この本にも書かれているほど。
五味氏が彩色にカラーインクを使っていることは,随分昔に雑誌で紹介されていたのを覚えています。学生の時に,真似をしてカラーインクで絵を描こうとしましたが,色が濁って上手くいきませんでした。以来,カラーインクを見るたびに,憧れの五味ワールドを思い浮かべてしまいます。

この『絵本を作る』は五味氏の制作手法の舞台裏と,その制作思想がコミカルにテンポよくに綴られています。カラーインクとの出会い,紙の種類との格闘などの思い出,原画の整理方法などイロイロ窺い知ることができます。これらの解説に関連する道具や,仕事場の様子が,写真入りで誌面に現れるものだから,そのスタイルにも憧れてしまいます。

「絵なら表せることを描くのさ。(中略)そうじゃない絵はむつかしい」の章は,ハッとさせられました。つまり「たとえば,防火週間のポスターの絵なんてやつ。(中略)もう伝統的な名コピー『火の用心』で,すっかりその意図は表しているのに,さらに絵を描くわけさ。(中略)そんなところに,絵はモタモタ出るべきではないんだよ。炎に怖そうな目やキバを描いてもダメなのよ」(p.27)。
学校って,こういうポスターを現今も描かせていますよね。

『絵本を作る』(五味太郎,ブロンズ新社,2005年)1600円

絵本の作り方(2原画の保存には市販のポートフォリオケースを使っている様子
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71:『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』 16:27
佐藤可士和のつくり方(表紙)

以前に紹介の『佐藤可士和の超整理術』(blog No.68)は,アートディレクター佐藤可士和氏の企業のコミュニケーションデザインへの思考回路を公開したものでした。
こちら『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』は,SAMURAI(佐藤氏の主宰する事務所)の仕事をマネージャーの観点から描いたもの。ハードカヴァー本として,角背の美しい造本です。
アートディレクターという仕事の中身を,業界だけではなく一般の人にも理解してもらいたい,という思いで綴られています。ストーリーの柱としては,(1)アートディレクターという職種の紹介,(2)佐藤可士和氏のアートディレクターとしてのデザイン紹介,(3)オフィス空間環境への思い,から成ります。

佐藤可士和のつくり方(明治学院佐藤可士和の作り方(本文)左:明治学院大学のUI,右:オフィス空間を「作品」として公開

作者の佐藤悦子氏は「企業やブランド,商品といったデザインの対象物が持つ本質を掴み,課題を明確化して,コンセプトメイキングから最終アウトプットまで,プロジェクト全体を統括する。クライアントとコミュニケーションを重ね,問題を解決する糸口を見つけ出し,最後に形にするところまで責任をもって見届けるという取組み方」(p.20)とアートディレクターの職業を解説してくれています。また「コミュニケーション・コンサルタント」として問題解決のアプローチ方法として「商品の開発からパッケージデザイン,売り方やPRの戦略まで,すべてに関してトータルにディレクション」(p.22)まで発展する仕事であるとも述べています。

後半の誌面の多くを占めるのがオフィス空間環境の話題。「サムライにとって,オフィスは単なる仕事場ではなく,作品のひとつだと思っています」(p.158)と宣言し,オフィス写真も作品と同等に掲載し「空間が伝える思想」(p.167)としてのメンタル面の環境論には興味深いものがあります。

後半の「クリエイター意識とのギャップ」の項では「ひとりの社会人として当然と思われるレベルのところでは”クリエイターだから何でも許される”といった勘違いはして欲しくない」(p.192)と,マネージャーを超えた配偶者ならではの佐藤可士和氏へのパンチもあります。しかし,これはクリエイター全般へ向けての辛辣なメッセージなのかもしれませんね。


『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』(佐藤悦子,誠文堂新光社,2007年)1800円
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69:『オープンヒア』 14:23
「オープンヒア」
家電等の操作マニュアルは,さっぱりわからない! ―― という声が盛り上がったのは,今から15年くらい前だったでしょうか? その後,各社はマニュアルを図解入りの視覚的なものにしていきました。それでも製品に詳しい人には理解できても,一般庶民には初めての操作は相当に難しいものであることは誰でも経験があると思います。

この『オープンヒア』は,東西のマニュアルの比較的わかりやすい図解を集めたもの。食品パッケージの開封の仕方から,ネクタイの締め方,飛行機での緊急避難の図解などを網羅した面白い本です。
一つの製品を買った際に,この本のヴォリュームで一冊丸ごと図解のマニュアルがあったら ・・・どんなに楽しくて,イライラしないで済むでしょう。

「オープンヒア」本文

先日,一眼デジタルカメラを買いました。本体の重厚感と較べて,操作マニュアルはモノクロ仕様の貧相なものでした。買うまでのツールであるPRカタログの方が,誌面デザインや写真の質・紙質・印刷の精度等,数段わかりやすい仕上がりです。
製品開発と同じレヴェルで,マニュアルづくりに力を入れるというバランスは,現実にはなかなか難しいものだと思います。

『オープンヒア』(ポール・マイクセナール,ピート・ウェステンドルフ/著,
中村省三/訳,ワールドフォトプレス,2007年)2667円
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