富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

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190:『「捨てる!」技術』&『僕が読んだ面白い本・ダメな本 そして 僕の大量読書術.驚異の速読術』 19:10

「捨てる!」技術+

 

● 時期尚早だった『「捨てる!」技術』

大ブームとなった『断捨離』(やましたひでこ著)が2009年刊行ですから,この辰巳 渚『「捨てる!」技術』は,それよりずっ〜と前に提唱されています。

 

私の購入は17年前で,初版も同じく2000年です。作者も「完璧を目指さない」(p.110)とする緩やかな「『捨てる』作業によってモノの価値を検討する」(p.6)生活スタイルの提唱で,後発の「断捨離」ほどのインパクトと徹底さはありませんが,当時,噛み付いたのがジャーナリスト立花 隆氏でした。

 

1965年生まれの作者は当時35歳,当ベストセラーで知られるようになった新人です。巨匠・立花先生は,その後『僕が読んだ面白い本・ダメな本 そして 僕の大量読書術.驚異の速読術』なる超長〜いタイトルの単行本を出しますが,その中で「『「捨てる!」技術』を一刀両断する」と章建てまでしての徹底ぶり。何ともお疲れ様です。

現今,書店では「ミニマリスト」の生活スタイル関連がコーナー化されるほどですが,立花先生はどう見ているのでしょう,この潮流を・・・。

 

● 収納法ではモノは片づかない(辰巳,p.95)

生活スタイルの一つの提唱ですから,採り入れるか否かは,個々人の裁量です ──「私はこの本を全く評価しない,ほとんどカスみたいな本だと思っている。「捨てる技術」を使うなら,まっ先に捨ててしかるべき本だと思う」(立花,p.374)まで言い出す始末。巨匠ともある御仁,ここまで攻撃する〜!?

 

「女性が日用品について信奉したくなる『収納法』,男性が書類や資料について信奉したくなる『整理法』」(辰巳,p.85)── 確かに,確かに・・・。

当書を購入時,人一倍の蒐集癖があり「捨てる」発想が皆無だった私も,その後の「断捨離」教に少なからず影響を受け,今はモノを買わない生活を目指しています。17年を経た再読で「モノが多いから収納法・整理法が必要になるのだと考えよう。モノを減らせば方法論に頼るまでもまでもなくなってくるはずだ」(辰巳,p.92)のフレーズに強烈に共鳴する私。

整理術が載っている雑誌類には急に興味が無くなってしまった私。

極論でしょうが,そもそも家に収納スペースって必要なんだろうか? とも思うようになった私。

 

建築家・宮脇 檀の声を引用している次の箇所も興味深い ──「そういう部分(押入や納戸)をたくさんつくればよい設計だと喜ばれるのは経験上分かっています。けれど,いくらたくさん収納を作っても,そこは後から後から買い込まれるモノたちですぐに一杯になるだけだ,ということも私たちは同時に知っています」(宮脇 檀『男と女の家』)。

 

● 暮らし方を作り直す

今,改めて紐解きますと,当時は作者自身が若いので,そこまで達観していたかは分かりませんが,主張内容の哲学は「捨てる」技術にあった訳ではないように感じます。

「持っているモノはどんどん使おう。逆に、使わないモノは持つのをやめよう(辰巳,p.83)

「身のまわりにあるモノの山を『捨てる』ことか始めて,暮らし方を作り直す(辰巳,p.220)

「のんびり自分らしくくつろげる家に暮らしている人はどのくらいいるのか」(辰巳,p.221)

アッという間にアラ還(=間もなく還暦)となった今,暮らし,住宅,道具の在り方,シンプルな生活の良さを志向する考え方への余裕が私にも湧いて来ました(遅!)。

 

『「捨てる!」技術』(辰巳 渚,宝島社新書,2000年)680円(当時)

『僕が読んだ面白い本・ダメな本そして僕の大量読書術・驚異の速読術』(立花 隆,文藝春秋,2001年)1714円

 

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189:『本棚にもルールがある』 20:29

本棚にもルールがある

成毛氏の提唱する「面陳」ディスプレイで撮影

● 本棚は本の収納場所ではない

永年,既製品に満足できなかった読者の私,数年前に,持っている本の量とサイズに合せ壁2面で天井高の本棚を特注したのですが,すぐに一杯に。成毛 眞氏は「本が見にくい本棚は機能しない」(p.15)とし「勇気と決断力を持って,本棚に入れる本と入れない本の選抜をしてもらいたい」(p.16)そして「2割は空けておく。新しい本を入れるスペースは常に用意」(p.82)を,理想の本棚の条件に挙げています。

冷蔵庫にルールがあるのに対して「この本が本棚からなくなったら代わりにこれを入れるといったように,鮮度や回転といった考えがない」(p.3)とも。そうなんですよね,確かに「本棚は本の収納場所ではない。読みたい本をすぐに手に取るためのシステム」(p.50)なんですよね。

 

● 本棚は新陳代謝を繰り返さねば意味がない

「買う本の量をセーブするのは愚かな人間のすること」(p.14),「自分に投資をすべく『迷ったら買う』」(p.150)を原則とする成毛氏ですから,読んだ本をどうするかは頭を悩ませ続けた問題だったようです。

成毛氏が辿り着いた,新陳代謝の仕組みを適えるのは『必要な本棚は3つ』ルール,本書の大半を占める第2章(p.55〜142)で語られています。

 

(1)新鮮な本題・・・受け入れる本を制限しないオープンな本棚で「これから読む本,今読んでいる本を置く場所」(p.57)。書店の「平台」の位置づけ。

(2)メインの本棚・・・(1)の読後に選抜された本が入り,背表紙のタイトルも見えるようにする。面陳(=表紙を見せる並べ方,書店用語)をすると,その本棚のテーマがはっきりと見える。

(3)タワーの本棚・・・他の本とは別に扱うべき辞書,事典,ネタ帳の本のスペースで,成毛氏は場所を取らないタワー型の本棚(blog 番外編.01)を採用しているから名付けたようです。

(番外編)神棚・・・絶対に捨てたくないのに「メインの本棚」に入りきれない,人生に影響を与えてくれた本,励まされた本,癒してくれた本たちで,特別な本棚に祀る。とは言いながら,成毛氏は「トイレなどに場所を確保するとよいだろう」(p.109)だそうです。「神棚」じゃなくて,文字通り「紙棚」ですけど,神聖な場所に納得です。

 

本棚の新陳代謝は(1)→(2)の原則で守られるようです。

「神棚」本の在り方は,これまで考えたことのないジャンルでした。成毛氏の図面

 

● 小物を飾ってイマジネーションを生む

私の場合,棚の手前に日常の小物を置いてしまうのですが,単にスペースの利用です。成毛氏は「自分の本棚は,いつも見ていたいと思えるものにしたい」(p.120)として,ジャンルとつながりがある小物によるディスプレイを勧めています。本の面陳(=上文に解説)によるアクセントの他,象徴的な小物として,古いカメラ・万年筆のボトルインク(社会・事件ジャンル),使わなくなった腕時計(歴史ジャンル)等を挙げています。

私も真似をして,叔父の形見でもある古いフィルムカメラを飾りました。

他のアドバイスとしては「背面は,板で覆われているよりも,空いているタイプの方がいい。風の通りが確保でき本が傷みにくい」(p.66)と。以前に私が注文して作った本棚では,湿気の逃げ道の考えが無く今では欠点と感じています。 

 

『本棚にもルールがある ── ズバ抜けて頭がいい人はなぜ本棚にこだわるのか』

(成毛 眞,ダイヤモンド社,2014年)1400円

  

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182:『知的生産の技術とセンス』 21:48

182

 

● 知の巨人・梅棹忠夫氏をリスペクト

本書『知的生産の技術とセンス』は,先達のリスペクト版として,この秋に出たばかりです ──「まだインターネットも普及していなかった時代に,来るべき情報革命の時代を予見し,個人の情報との付き合い方を解説した本がありました。民族学者・梅棹忠夫(うめさお ただお)先生による大ベストセラーとなった『知的生産の技術』(岩波新書)です」(p.3)。

リスペクトされている原書の舞台は1969年,今のブログやfacebookのようなソーシャルメディアを利用し個人が情報を発信する場など,夢物語の時です。それどころか,オフィスにもコピー機やFAXが見られなかった時代の出版ですが,今でも岩波新書の中でベストセラーを誇っています。

なぜでしょうか・・・

 

● 道具は変わっても本質は変わらない

「梅棹先生の提唱した『知的生産の技術』は,情報の集め方,記録の仕方,そしてアウトプットの仕方など,私たちも今日から実践できる」(p.5)情報の整理に関するバイブルの位置づけです。

「道具は変わっても本質は変わらない」(p.76)精神を受け継ぎながら,時代にそぐわなくなったデジタル情報整理と,ソーシャルメディアによるアウトプットの活動促進を補ったのが本書で,サブタイトルに「知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術」と付いた『知的生産の技術とセンス』です。

 

とは言え,私は,バイブルの方のアナログ時代に慣れた世代(やっとワープロが一般に普及しだした1980年代の社会人組)(それでも「新人類」と揶揄された世代)です。本書で紹介のデジタル情報整理ツールEvernoteなどを駆使している訳でもなく「ツールは変わるが,考え方は変わらない」(p.178)の『考え方は変わらない』の方を地味に歩んでいます。

本書では「発見の手帳」が一つのキーワードになっていますが,私は手書きによるノートが以前よりも増えている状況です。

 

● バイブル『知的生産の技術』の続編として

作者の堀 正岳・まつもとあつし両氏とも40歳台前半,読み進めるとデジタル情報に慣れ親しんでいる20歳台〜30歳台の方を対象にしているようです。出版元も当世代向けの会社です。

昨今,デジタル環境で育った周囲の大学生たち,いきなりPC在りきで物事を進めているように見受けます。これは「道具」に過ぎず,やはり重要さを説きたいのは「知的生産の技術」の素養です。

デジタル対応の部分は当『知的生産の技術とセンス』が補うのを知った上で,先ずはバイブル『知的生産の技術』を基礎編として読むと,堀・まつもと両氏の伝えたかった本質が見えてくると思います。

 

個人の知的生産(アウトプット)が,facebookやYoutubeやブログで容易になった現今,次のエールが印象的です ──「知的インプットまでは得意だ・・・でもアウトプットとなると尻込みをしてしまうという人がほとんどだと思いますが,あえて自分の考えや制作物を人目にさらすことで得られる,この一周めぐる間隔を味わっていただければと思います」(p.226)。

 

作者のお一人・堀氏は,手書きノートの味わいを突き詰めた『モレスキン「伝説のノート」活用術』(blog No.150)を著した方でもあります。

 

『知的生産の技術とセンス』(堀 正岳・まつもとあつし,マイナビ新書,2014年)1080円

『知的生産の技術』(梅棹忠夫,岩波新書,1969年)780円

 

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181:『モノが少ないと快適に働ける』 15:54

No.181(口絵)

 

● 男性版「断捨離」実践ストーリー 

作者・土橋 正氏は経営コンサルタントで,文房具系の分野では,よく知られた方です。今回は文房具に関する話しではなく,土橋氏自身が断行した仕事スタイルについて綴った内容です。

内容は,大きく分けて──

(1)モノ系の「取りさばき」と空間管理

(2)時間管理術

(3)プライベートライフ術

から成りますが,私の関心事は,本書が男性版・断捨離のノンフィクションであった点です。「断捨離」のフレーズ自体は,今や,提唱者・やましたひでこ氏の登録商標のようですが,土橋氏の実践は仕事スタイルを絡めた「道具と空間,時間の定位置化」に特徴があります。

No.181(表紙)

本書の扉(右写真)には,土橋氏の超モノが無い仕事場の写真,そして「集中力がみなぎる仕事空間」のコピーが配されています。

「取りさばき」(=「一つひとつ適切に判断して,いる,いらないを決めていく」p.62)の賜物です。

 

● モノがないという空間がある
独立当初の土橋氏は,自宅の書斎を事務所にしていたようですが,やがて同じ場所での仕事とプライベートに限界を感じ,コンパクトな個室オフィスを借りたのが「断捨離」の大きなターニングポイントだったようです。
「書類や道具など身の回りの一つひとつを見直し,これ以上は減らせないというくらいまで少なくした最小限の構成で仕事をしています」(p.177)に至った考え方と,書名にもなっている「モノが少ないと快適に働ける」仕事場の紹介です。

 

● ストレスを抱えない過ごし方スタイル

きれいなデスク回りが象徴的過ぎるのですが,土橋氏が本書の中で力説する一貫したキーワードは「ミニマリズム・スタイル」です。

単純・簡素の意味合いではなく「ある哲学にもとづいて内側からにじみ出てきたシンプルさ」(p.5),それに依るストレスを抱えない過ごし方の紹介です。

読者の私はと言えば,オフィスは大学の研究室,敷地内の宿舎が自宅,要はオフィスも自宅も似たような空間利用で,資料的なモノに溢れた生活。これを打破しなくては! と悶々としていた時に遭ったのが本書『モノが少ないと快適に働ける』です。

「断捨離」するなら,引っ越しが手っ取り早いな,と思っていたのですが,私は,住居の方を新たにすることにしました。この本が精神的な刺激となったのは確かです。年末か年始に引っ越し予定で,目下,作り付けの棚など設計中です。

 

『モノが少ないと快適に働ける』(土橋 正,東洋経済新報社,2014年)1300円

 

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176:『「見える化」勉強法』 22:41

176:「見える化」勉強法

 

作者の遠藤 功氏はコンサルティング会社を経て,早稲田大学ビジネススクール(MBA)教授,この『「見える化」勉強法』も,大学院に学ぶ社会人経験者へ向けての語りかけです。サブタイトルの「現場から発想する思考術&トレーニング」が内容。

 

頭と体の鍛錬として,アウトプットを生み出す勉強を5つを挙げています(p.102-113) ──

1) 書き物にして発信(一冊の本にまとめる,雑誌の記事に投稿,学術論文に挑戦)

2) ビジネスに直結するアウトプット(ビジネスプランや新規事業の企画書にチャレンジ)

3) 多くの人の前で「話す場」を積極的に設ける(社外で講演,社内の企画会議でプレゼン)

4) 人に「教える場」を経験(相手の興味やレベルを考えながら話を進める講師)

5)「資格」を取る(ビジネススクールのMBA=経営学修士,など)

 

MBAを目指すのは30歳台前半の方だと思いますが,若いビジネスパーソンにとって上記の内(1〜4)は,どれもハードルの高さを感じることでしょう。読者の私も,40歳台前半まで会社勤めをしていましたが,30歳そこそこでは,上記の何れにも該当がありませんでした。その手だてすら分かりませんでした。

そんな風だった私が,今は学生を教えているのですから,本書の示唆は,そのまま私自身の30歳台〜40歳前半の回想のような感じです。私の場合,職種上とくに(2)の機会に恵まれた,と感謝しています。(2)をベースに,(3)と(1)が勝手に連鎖して広がっていきました。社会人大学院では,初めて(1)にチャレンジする機会を持ちました。

 

176:「見える化」勉強法(中身)本書は,Part 1〜Part 3から成ります。

Part 1は「じっくり観る,しつこく観る」ことでの「現場センサー」感度の磨き方で,ビジネスのすべてに共通する基礎編です。

Part 2〜3こそが,遠藤氏がビジネス上で築いてきたトレーニング方法です。

1)自分のメッセージを「言語化」できる能力開発・・・思考は「書いたもの」に凝縮されて表れる

2)ノートで思考を「見える化」する・・・「思考の欠片(かけら)」→「思考の上書き」へ

3)数多くの経験を積んで「引き出し」を広げる意識

 

当たり前と言えばそれまでですが,作者の実践例の公開は臨場感があります。とくに

写真によるアウトプットのプロセス公開は,先達の知的生産の技術を垣間みる思いでした。

MBAを目指す社会人向けですから,ビジネス経験の少ない20歳台では,やや共鳴するシーンは少ないとは思います。30歳台前半のビジネスパーソンが精読し,意識・実践して欲しい内容でした。必ずや,経験の意識的な積み重ねは,後々何らかの成果を築きます。

会社勤めをしていた私ですが,(4)を日々体験できる大学に職を移したのは40歳台になってからです。

 

『「見える化」勉強法』(遠藤 功,日本能率協会マネジメントセンター,2010年)1500円

 

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172:『蔵書の苦しみ』 14:04
蔵書の苦しみ

書名を思わず『読書の愉しみ』と読み間違えそうです。
古本屋さんに買ってもらったり,とうとう「一人古本市」を開いたり,ざっと約2万冊,いや3万冊ぐらいあるのかもしれない蔵書を抱える作者・岡崎武志氏の「蔵書の苦しみ」からの少しばかりのダイエットを綴った7月末の新刊です。
「整理術うんぬんを語れるのは,五千冊ぐらいまでの蔵書の場合だろう」(p.23),仕事をするとき「活きるのは,手の届く範囲に置かれた本なのだ」(p.58)と語る岡崎氏なのですが,3万冊は「年に一千冊の本を触れるなり,読むなり,一部を確かめたりしたとしても,すべてを触り終わるには三十年かかる」(p.27)とぼやく

なぜこうなるのか ── これは第十一話のタイトルでもあるのですが,要するに「男は集める生き物」(P.164)だからと分析。「消しゴムのちぎれた切れっぱし,道で拾ったビール瓶の王冠,壊れた玩具の一部分などゴミに近いものであっても,それを大事に思い,捨てずに取っておくというところに,すでに『オトコ』が芽生えている」(P.171-172)。

登場する著名人や歴史上の人物の蔵書話も勉強にはなりますが,臨場感があるのは,類を呼ぶ作者の友人のエピソードでしょう。
1万5千冊の蔵書のために,理想の建築家を探し,古い家を立て替え「本の栖(すみか)」の家を実現した知人Nさんの話。
自分がこれまでに溜め込んできた蔵書の有効活用として,定年後に古本屋経営を歩んでいるTさん。
居住空間が本に浸食され,ほとほと困り果てた人が登場する『山からお宝』(けものみち社)にカラーで登場する図書館勤務のSさんは結婚を機にダイエット,図書館で借りて済む本と所蔵する本の見極め眼が付いた話。
古書店の規模では買い切れなかった段ボール200箱以上の蔵書を持つ出版社勤務(定年後の現在は出版社を経営)のHさん。お寺での1万冊(3トン車で二往復)の破天荒な「一人古本市(4日間)」で95%を消化(この成功を真似たのが,ギャラリーを借りた作者の「一人古本市」,3日間で段ボール50箱・2千500〜3千冊を減らした)。

リアルな書籍の話だけではありません。映画『遥かなる山の呼び声』(山田洋次 監督,1980)や『ジョゼと虎と魚たち』(犬童一心 監督,2003),『いつか読書する日』(緒方 明 監督,2005),『愛妻物語』(新藤兼人 監督,1951)やTV映画『ビブリア古書堂の事件手帖』(剛力彩芽 主演,2013)観る映像として,本や本棚が写っている光景の描写は,この本を著す作者ならではの観察眼!

私は頁を進んだり戻ったりと,本を読むのが遅いのですが,文体が軽やかでスラスラと読み終えることができました。

『蔵書の苦しみ』(岡崎武志,光文社新書,2013年)780円
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170:『学び続ける力』 15:17
学び続ける力(1

 

やたら校務に追われていた最近,ところが,その合間を縫って,なんと自分でもびっくり! 今週の月〜水曜日は,ゼミの卒業旅行で沖縄に行けたではありませんか・・・。

中部国際空港(セントレア)の書店で購入して,その空路の中で読んだのが池上 彰氏の『学び続ける力』。今年になって出たばかりの本です。出発までの短い時間でも選べた理由は,第2章のタイトルにもなっている「大学で教えることになった」が目に入ったからです。

 

池上氏は2012年4月から東京工業大学リベラルアーツセンターの教授になっています。前期授業『現代社会の歩き方』(2年生以上対象)と『現代日本を知るために』(1年生対象)での「研究やアルバイトなどで慢性疲労状態の学生」(p.53)へ向け,池上氏の教え学ぶ視点からのレポート構成です。

「いまの学生に90分ずっと集中して聴いてほしいといっても無理でしょう。(中略)東工大の学生は,30分は集中して聴くことができるでしょうが,やはり工夫が必要です」(p.52)と考える池上流 Plan → Do → Check → Action の展開を垣間みることができます。

あれほどの売れっ子ですから,最初は教室の収容に対し履修希望者が殺到したようです。しかし成績評価の段階で「『池上は評価が厳しい』との情報が学生の間に広がったのでしょう。後期の授業の履修希望者は,教室の定員を大きく下回りました」。ところが,池上教授の見解「楽に単位が取れる科目がいい。これは,私の学生時代もいまも,変わらぬ学生気質です」(p.97)とは,掴み所の違いを感じます。凡人なら,自分のことは棚に上げて「今どきの学生は・・・」となりがちですからね。

 

東工大といえども,我が愛知教育大学と似た状況はあるようです。

「いま,一人暮らしで新聞を取っている学生は,残念ながらほとんどいません」。家から通っている学生にも「『何新聞なの?』と重ねて訪ねると,『さあ……」と出てこない」(p.131)と。

原稿用紙が使えない学生がいた時の驚きの記述では「必ず最初の1マスは空けて書いていき,話の流れが少し変わるときは段落を変えて,また1マス空けるということができない学生が意外と多くいたのです。ふだんのメールでは,改行しても行間は空けないでしょうし,小学校では習ったものの,それ以来,書く機会もなくて,忘れてしまったのかもしれません」(p.80)もあり,これも愛教大と同じようです。メールやブログなどweb上の書き方を原稿用紙でも応用してしまう,よくあるケースです!

上記,本の中から池上教授を通したマイナス面を取り上げてしまいましたが「出席はとらない」宣言をした授業にも「5月の連休の谷間の授業でも,大勢の学生が出席してくれたのには感激しました」(p.12)に代表されるように,現代の学生を高く評価もしています。同時に教授側からありがちな「連休の谷間は休講」の措置を取らない池上教授の姿勢にも敬服です。

── と,行きと帰りの飛行機の中は,本を通して池上流の「授業デザイン」論を受講した時間でした。

 

『学び続ける力』(池上 彰,講談社現代新書,2013)

 

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167:『facebookバカ』 21:59
「facebookバカ」

実際のfacebook上のアップ記事に「この本の表紙,小さな子供がクレヨンでfacebookと落書きしていますよね。bookがpookに見えた」とあり,そうそう,私も書店で購入時に「ん?」と思ったものです(ちなみに「pook」という単語は無いとの由)。
(๑′ᴗ‵๑)

閑話休題「フェイスブックが手紙や電話,メールの次に登場した画期的なコミュニケーションツールである」とまえがきで述べ,あとがきでは「『ケータイ,持っていないの?』と同じように,『フェイスブック,やっていないの?』になるのは遠い将来のことではないのです」 ── と,作者・美崎栄一郎氏は断言しています。

ブログですと集客を考え続けないと「墓場」と化し,個人の運営では難しいメディアです(と,こうしてブログを書いている私)。それに対し今注目のfacebookは人を集める仕組みを予め持った,むしろ庶民向けの「新ブログ」と言えます。ブログにしても僅か8年前の2004年に本格登場したところなのですが・・・webメディアの盛衰は早いものです。
facebookは仮に公開しなくても(記事や写真を「非公開設定」に,または「公開範囲設定」も可),web上でテーマ別に自分の「写真アルバム」をストックできます。また「現在」の出来事しか投稿できなかったブログやツイッターに対して,過去の出来事も時系列(タイムライン)変換で整理できます。web上に『自分史』を簡単に作ることができるツールです。
その特性について,美崎氏は「タイムラインという発明は,画期的です。敢えて『発明』と言ってしまいます」(p.144)が「フェイスブックだけが過去の出来事をあとから投稿することができる仕組み」(p.114)と絶賛しています。読者の私が,もっとも興味を持った部分です。
例えば幼少期の写真等の過去のコンテンツも「デロイアン号に載せられるようになった」(p.145)タイムラインという仕組みのおかげで解決できます。日付設定だけをバック・トゥ・ザ・フューチャーして過去に送る仕組みです。詳細は,本書のp.144-150をご覧ください。

上記の解説の他さまざまな裏技など,facebookを使い始めて,ある程度の操作を覚えた人へ向けてのタイムリーな出版物です。

美崎氏は,最近まで花王の社員でしたが「私のように退職したあとでも,勤めていた会社や仲間に愛着のある人は,今のようにフェイスブックがなかったらどうなっていただろうと思います。(中略)フェイスブックで繋がっているのは,本当に便利で楽しいことなのです」(p.64)と綴っています。
私も,かつて勤めていた会社の仲間から,私のfacebookへの投稿記事や投稿写真,シェア情報に対し「いいね!」やコメントがアップされていると,とてもうれしいものです。

『facebookバカ』(美崎栄一郎,アスコム,2012年)1300円
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166:『でかいプレゼン 高橋メソッドの本』 19:14
でかいプレゼン 高橋メソッド

自分なりの「なんとかプレゼンする方法」を見つけ,やり方が,よくある手法とは大きく異なっていたため,いつしか「高橋メソッド」と呼ばれるようになりました、と本人が語る「高橋メソッド」。

もとは高橋征義氏が2005年にweb上に公開したことで,話題となったプレゼン手法です。
webでは「高橋メソッド」の説明を,高橋メソッドに基づいた手法でプレゼンしています。
http://www.rubycolor.org/takahashi/takahashi/img0.html

削ぎ落としまくった簡潔な単語だけを,画面いっぱいに「でかい文字」だけで勝負するプレゼンです。生みの親・高橋氏が、今度は書籍で著したのが,この『でかいプレゼン 高橋メソッドの本』です。
本の企画時に周りから「全ページに1行とか2行しか文章がない本を想像されてしまった」と語っているくらい,このメソッドは「巨大な文字」「簡潔な言葉」が特徴です。

プロジェクター投影されている画面と全く同じものをプリント配布しているプレゼンを受けることは多いと思います。高橋氏は「そのまま配布資料になるというのは,逆に言えば、配布資料のようなものをプレゼンのスライドに使っている」ことの問題性を指摘
── とっても納得と共鳴をします。
一般的なプレゼンに上記のような問題点があるにも関わらず,大きな文字プレゼンの高橋メソッドは下手をすると「これはネタではないか」(p.122)また「ただでさえ冗談のように見えがちな手法」(p.28)に映りがちです。高橋氏は「(モリサワのゴシックMB101Bのような)良質なフォントを使うべき」点と,TPOとして「ふざけていると誤解される可能性もあるので,上司の方などとよく相談される」ことの勧め,そして「クライアントの方々の面子や性格をあらかじめ把握しておく」など,社風の観察にも言及しています。大学生が授業発表で使おうと思っても,発表内容や教室の空気を読む必要はあります。

「本当のことを言うと,『メソッド』なんて大々的に謳うような,すごい手法というわけでもありません。普通の人でもあっさりと使える,ちょっとした『工夫』のようなものです」(p.22)と謙遜していますが,多くの人が看過していた「大きなものは目立つ,目立つものは記憶に残る。人が文字を使うときの大原則」(p.98)を具現化したことは,やっぱり「メソッド」と呼ばれる所以です。

『でかいプレゼン 高橋メソッド』(高橋征義,ソフトバンククリエイティブ,2005年)1200円

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162:『論文・レポートのまとめ方』 17:30
162:論文・レポートのまとめ方

この時期,大学では卒業研究の口頭発表会があります。私は今年,専攻領域の枠を超えた大学院進学予定者だけのコースの口頭発表会にも顔を出しました。「よく調べた上で主張を導き出し、論理的にまとめているな」と感心する成果レヴェルもあれば???の発表もあり・・・。

口頭発表の前提になるのは,言うまでもなく卒業論文です。
ゼミ学生の論文指導と並行して,昨秋からチビリチビリ読み進めてきたのが『論文・レポートのまとめ方』です。この類の本では,同業者(作者の古郡廷治氏は電気通信大学 教授/出版当時)の卒論指導を窺い知ることができます。「形式に難点があっても読んでみると内容のある文章もある。いくら形式が整っていても内容がなければ文章は不毛」(p.28)なのですが,大学で卒業研究が課されるのは,論理だった主張を「効果的に表現する」(p.37)作法を身につけるトレーニングだからです。

論文には内容と形式があります。人生最初の論文に対して,内容面と形式面の両輪を整えるのは難しいでしょう。形式面での精緻化は大学院の段階では完璧に揃えて欲しいと願っています。但し,学部段階であっても,適切な引用の仕方,註釈の付け方などは習得しておきたいものです。
学部の卒業論文で整備できなかった「ちゃんとした形式と適切な文章表現」(p.3)を見直す上で,この本『論文・レポートのまとめ方』は指南書となるでしょう。大学院の1年次の夏休み前くらいに読み,マスターしてもらいたい内容が詰まっています。
本書のコンテンツは,
第1章:文章の要諦、第2章:論文の構造、第3章:論理の文章,から成り,それぞれ3〜4の節が有り,さらに各々3〜4の項目と休憩室で構築されており,まさに論文の階層に則っています。

本書の中で,やっぱり書かれているな! と思ったのが「接続用語や照応詞の乱用は避ける」の項目です。「接続用語は文の接着剤あるいは釘の役目を果たすものである。接着剤は使わずに済むものなら使わない方がいい。木工製品でも,悪いものほど接着剤や釘をむやみに使っている」(p.192)の件。
池上 彰氏の『伝える力』(blog No.142)にも,清水義範氏の『大人のための文章教室』(blog No.159)にも明記されています。この御触れに出会ってから,私も意識して心掛けている掟です。

『論文・レポートのまとめ方』(古郡廷治,ちくま新書,1997年)756円
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