富山祥瑞の大福帳(読書ブログ)
「大福帳」とは,江戸時代に商屋で使われた金銭出納帳で,現在の簿記のように勘定項目を分けずに取引の順に書き連ねた経営活動の記録。
この発想に倣い,ジャンルを問わず読んだ書籍の記録を順次残していく知的生産活動の日記としていきたい。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
137:『ルリユールおじさん』 17:19
ルリユールおじさん(表紙
ルリユール ── これは,ひょっとして憧れの製本工房のことか! 近くの書店の絵本コーナーで発見したのが,この『ルリユールおじさん』です。
以前に,当ブログで
『装丁ノート 製本工房から』blog No.27)を取り上げた際にも書きましたが,私はルリユールにとても興味があります。しかし,その技術を習う機会は未だに持っていません,
本の奥付には,RELIEURを「ヨーロッパで印刷技術が発明され,本の出版が容易になってから発展した実用的な職業で,日本にはこの文化はない。(中略)出版業と製本業の兼業が,ながいこと法的に禁止されていたフランスだからこそ成長した製本,装幀の手仕事(後略)」と紹介しています。

ルリユールおじさん(本文
ストーリーの舞台はパリ。
主人公は「大きくなったら,世界中の木を見てあるきたいな」と夢見る女の子ソフィー。
「こんなになるまで,よく読んだねえ」というほど読み込んでボロボロになった大切な植物図鑑。
「『ルリユール』ということばには『もう一度つなげる」という意味もあるんだよ」。

ルリユール工房での製本工程が,美しい水彩画の表現と,女の子への語り口調でほのぼのと展開されています。
ルリユールによって,ソフィーの大好きなアカシアの木の頁が表紙になり『ARBRES de SOPHIE』という本に修復されるまでの,ルリユールおじさんと少女の,たった一日間の出来事を綴ったもの。
いや,最後の頁を読むと,10年以上の物語でした ── 「おじさんのつくってくれた本は,二度とこわれることはなかった。そして私は,植物学の研究者になった」。

作者・いせ ひでこ氏が,パリ路地裏の工房を取材・スケッチしてできた絵本。当『ルリユールおじさん』で,講談社出版文化賞絵本賞を受賞。


『ルリユールおじさん』(いせ ひでこ,理論社,2007年)1600円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
133:『紙とコスト』 13:22
紙とコスト(カヴァー)
本には「読み込む本」と「味わう本」とがあると思います。
前者は書き込みをしていくことで読破した気持ちになります。一方「味わう本」は文字通り,紙の色や文字組み,造本仕様など愉しみ「ながら」読みます。この紙面には,書き込みなんかさせる表情はありません。

今回は,紙・造本・印刷をテーマとした書名も『紙とコスト』,味わう本です。
紙の商社「竹尾」では,毎年『竹尾ペーパーショウ」を開催していますが,2003年度のプレゼンテーションを本にまとめものです。
紙づくりの基礎講座のイントロがあり,中心はパッケージング講座,そして特殊紙(辞書の紙,名刺,包装紙・・・),締めはエディトリアルデザインです。この本自体が,紙製品を商品化する発想プロセスのバイブルとなっています。
書名に「コスト」と付いているので,印刷関係者への経営指南書と思われてしまうかもしれませんが,紙を主素材として誕生した商品群のデザイン秀作集です。でも作品写真集ではありません,端正な組み方で文字情報もいっぱい詰まっています。

紙とコスト(本文)
私が惹かれた頁は「実際に作られたデザインのラフやダミー指定紙,サムネイルなどと,最終的な仕上がりの姿とを対比させ」(p.129)た最終のエディトリアルデザインの章。僅か11頁に過ぎませんが,完成すると捨てられる運命の印刷指定紙やカンプが,完成した書籍と伴にに写真で紹介されています。後々,このような形で紹介されるのを前提としているかのごとく(建築設計書でも思うのですが,やはり作者は意識して保存しているのでしょうか?),作品化されている姿に博物的に見入ってしまいます。

広告・マーケティング関連の出版社「宣伝会議」社の編集・発行で,企画とエディトリアルはデザイナー木下勝弘氏,竹尾の全面協力という体制での出版です。「味わう本」には多い事例なのですが,奥付には「本文(4色頁):DXダイヤペーク/四六判T目/110kg」という具合に,使用された7種類の紙のデータも載っています。


『紙とコスト』(宣伝会議/編,宣伝会議,2003年)2400円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
80:『文字の母たち』 18:26
文字の母たち
今や印刷といえば,パソコンによる作成データをダイレクトに製版し印刷するのが普通です。1980年代に印刷を学んだ私の世代にとっての印刷といえば「写真植字(写植)」をベースとした平版印刷でした。照射により写真的に現像された文字組の印画紙を台紙に貼り(コピーのモト原稿を切り貼りして作るのに似ています),この版下をマザーとして製版し印刷する方式です。現今では完全に消滅していると思われるプロセスです。

これより前は「活版印刷」が印刷の主流でした。鉛の活字を拾い版を組む印刷方法です。「写植」の方はデジタル化に完全に駆逐されましたが,寧ろ「活版」はトラディショナルとして生き残っています。

この二世代前の印刷術である「活版」の現場を中心に,写真とルポを織り交ぜた本が,この『文字の母たち』です(写真集といった方が適切か)。取材先はフランス国立印刷所と大日本印刷市谷工場。
活版は,その重厚さ故に消滅しません。
そのことは,撮影が許可されなかった「パスポートをはじめとする公文書印刷の部門」ほかに「大統領の晩餐会のメニューなどの印刷」(p.102)の記述でも窺えます。

文字の母たち(本文)
写真は,ほとんどがモノクロームで構成されています。一頃,活版といえば粗雑なイメージもありましたが,その重みを感じるシーンからは,DTPなどは「おもちゃ」のように思えてしまいます。
使われなくなっても活字の母型が厳格に保管されている光景(大日本印刷)に対し,作者の港千尋氏は「文化遺伝子(ミーム)」とも賞賛しています。

日本における「活版」の技術は「明治二年(1869年),美華書館で使われていた活版印刷機と活字のセットを携えて,上海から長崎へ招かれたウィリアム・ガンブルは,日本人に活版印刷術を伝授した。そこで講習を受けた本木昌造が日本の活版印刷の祖」となったことも解説(p.61)されていました。

活版の書体である秀英体で組まれたことが「あとがき」に記されています。印刷方式そのものは,活版かオフセット印刷かは記載されていませんが,文字のシャープさは見事な印刷です。


『文字の母たち』(港 千尋,インスクリプト,2007年)3000円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
66:『名取洋之助と日本工房[1931-45]』 18:05
名取洋之助と日本工房(表紙)

戦前,日本文化を海外にPRするために『NIPPON』という優れた季刊グラプィック雑誌が発行されていたのをご存知ですか? 国策雑誌だったとして長らく歴史から封印されてきた文化財です。私もデザイン史の一コマで存在を知っていたに過ぎませんでした。表記も英語やドイツ語等で構成され,外国向けだったこともあり国内での流通が少なく,長い間,幻の雑誌でした。
ところが,2002年に全41誌の「復刻版」(国書刊行会,355,500円)が刊行されました。とてもとても個人での購入は不可能な価格です。
昨年,或る図書館で,雑誌の全て見せてもらうという機会を得ました(閉架,館内限定)。復刻版とはいえ,実際に観ると,これが約70年前の雑誌とは思えないほど,また,当時の軍国主義国家がこれほどまでに国際的なコミュニケーションツールを発行していたとは驚くばかりです。

名取洋之助と日本工房(五輪誘致)名取洋之助と日本工房(CI)
左:オリンピック東京誘致の「NIPPON 7号」(1936.6)の紙面紹介,右:日本工房では帳票類のデザイン体系(VI)も整備

『名取洋之助と日本工房[1931-45]』は,この『NIPPON』の創刊号(1934.10)から,36号(1944.9)までの主な表紙と本文が,写真版とキャプションで構成されている逸品です。価格も3000円と手頃です。この本からでも十分に『NIPPON』の素晴らしいグラプィックデザインの世界が堪能できます。『NIPPON』刊行の年代順に時代背景も同時に追っていけます。初期は古き佳き日本文化の紹介ですが,やがて誌面も軍事色が強くなっていき,デザインの質も理念も落ちているのが窺えます。『NIPPON』のグラフィックのパワーは,初期の頃の限定であることも解りました。

『NIPPON』発行元の日本工房は,編集長兼写真家の名取洋之助をはじめ,戦後の写真界を牽引した土門拳,デザイン界をリードした山名文夫,河野鷹思,亀倉雄策の各氏を輩出した機関でした。


『名取洋之助と日本工房[1931-45]』(白山眞理・堀 宣雄/編,岩波書店,2006年,3000円)
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
61:『まるわかり著作権ガイド』 17:18
まるわかり著作権ガイド(表紙)
著作権ガイド(本文)
広告会社に勤めていた時は,業務の上で不可欠ということもあり各種の著作権セミナーに社命で参加していました。セミナー等で啓蒙されると,著作権とは正論と思えますが,反面,その認識が無いと屁理屈とも捉えられてしまうのが著作権ではないでしょうか。

インターネット環境の劇的な発達で,従来の考え方では対処できなくなっているのも著作権です。新聞等でも著作権の概念が頻繁に論説されています。
しかし,そもそも著作権の基本的な知識は,どれほど理解・浸透されているのでしょうか?
以前に当ブログで,文化庁が出している『学校教育と著作権』の小冊子を紹介しました(ブログNo.02)。これは学校の先生向けのガイドブックでした。今回の『まるわかり著作権ガイド』は「実例を多数取り上げて,著作権に馴染みのない人や苦手意識のある人向けに,著作権について分かりやすく解説した一冊です」(p.3)。

法律関連の本は,ページを繰ってダラダラと解説されたものが多いようですが,本書は見開きごとで各項目が完結(写真参照)。第1章は基本的な知識を扱った[基本20ポイント],第2章は[トラブル例20ケース],第3章は[こんな場合は・・・55のQ&A],そして第4章は[著作権の世界情勢10トピック]と,総105項目の全てが見開きで構成されています。

かつて著作権は,マスコミ業界人だけが知っておけばよい程度でしたが,このネット社会では必然的に万人の基礎知識へと対象が拡がっています。この本で厳選されている著作権は,少なくとも,社会人1年生では習得しておきたいですね。


『まるわかり著作権ガイド』(彩図社編集部/編,彩図社,2006年)1500円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
39:『雑誌のカタチ ── 編集者とデザイナーがつくった夢』 12:40
『雑誌のカタチ』(表紙)
『雑誌のカタチ』(本文)
これまで編集デザインについては9話ほど触れてきました。いずれも単行本に対してのものでしたが,今回は「雑誌」について書かれた『雑誌のカタチ
── 編集者とデザイナーがつくった夢』。
この本を読んで改めて考えたこと,それは「人は,なぜ雑誌を買うのか?」。自問すると,本書にも記述がある感覚 ──「『雑誌を読む』という行為は, たまたま雑誌というコンテナー(容器)によって運ばれてきたコンテンツ(情報)を摂取することではなく,雑誌という〈カタチ〉をしたモノに手で触れながら,・・・その雑誌を作る人々や同じ雑誌を読む人々に想像を巡らせ」(p.28)ることに在るように思います。

難しい中身のような表紙の雰囲気ですが,序論の「反懐古的雑誌論序説」という作者・山崎浩一氏の自問自答的な雑誌哲学のほかは,章ごとに『POPEYE』『少年マガジン』『ぴあ』『週間文春』『ワンダーランド』『婦人公論』『小学○年生』『クイックジャパン』の歴史背景が,多くの誌面図版とともに綴られた雑誌の考現学です。図版のキャプションは,とても詳細です。それぞれ単独に『季刊・本とコンピュータ』に初出された記事から成っています。この点は『「本」に恋して』
(blog No.22と成り立ちが同じです。
各章は短編(15ページ程度)なので,すぐに読めます。出版社は,かつて編集業務をデザイン領域にまで高める牽引となった工作舎です(
blog No.32参照)。

私の興味の対象は,やはり同時代を歩んだ『POPEYE』と『ぴあ』です。そう,かつての『POPEYE』は,紙質が(雑誌『The New York Times Magazine』風の)ザラ紙で「中ゴシックで本文(11級)とキャプション(9級),各キャプションに矢印を入れ」(p.38)た,びっしり詰まった感のある誌面づくりでした(誌面写真は「追伸」参照)。
しかし,私は『POPEYE』の「玩具箱をひっくり返したような」(p.33)誌面には馴染めなかったように思います。気になった特集時だけの読者でした。


『雑誌のカタチ ── 編集者とデザイナーがつくった夢』(山崎浩一,工作舎,2006年)1800円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
36:『BOOK DESIGN ブックデザイン復刻版』 17:52
BOOK DESIGN ブックデザイン復刻版
BOOK DESIGN ブックデザイン復刻版(本文
前に見たことがあるな,と思っていたところ,奥付のページに「『DTP WORLD 別冊ブックデザイン Vol.1』(2003年)および『Vol.2』(2004年)を編集・増補して合本したもの」と記述がありました。よって,書籍というよりもmookです。ムックとはmagazineとbookの合成語で雑誌形式の単行本を指します。

モトがブックデザインに関する雑誌ですから,本書には多くの記事が集められています。特集的には「ブックデザインの歴史」と「ブックデザインのグラフィティ」です。これらはかなり見応えがあります(上写真参照)。
今回のスポットは,私が前回の『装丁物語』(blog No.34)を読んだ時から気になりだした「書籍のバーコード」に関する内容から。

『装丁物語』の中で和田誠氏は「(書籍の決められた位置にバーコードが入るとなると)本の歴史や文化を傷つけている」と激怒していました。私は,本が流通するための与件である,と捉えていますが,この考え方が本書で紹介されているではありませんか!
「バーコードが装丁のジャマだなんて,そんなふうに考えたことはないんですよ。仕事である以上は制約があるのは当然なので,それを踏まえた仕事ができなくてどうする,っていうぐらいに考えている」(ポット出版代表・沢辺均氏,p.142)。
「バーコードは装丁に枠をはめるためにあるのではない」(編集部,p.145)のですから,憤慨する前に,もっとおおらかに考え,デザインの工夫をする方が精神衛生的にも良いですよね。
ですが,この「本」では,取って付けたようなバーコードが施されていますね〜。

『BOOK DESIGN ブックデザイン復刻版』(ワークスコーポレーション,2006年)2500円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
35:『デザイナーと装丁』 15:25
デザイナーと装丁
デザイナーと装丁(本文
造本についての書籍を何冊か追ってきました。
編集者の立場から『「本」に恋して』(blog No.22),解説書として『新しい教科書 ── 本』(blog No.23),ブックデザイナーの書いた『装丁ノート 製本工房から』(blog No.27),通史の『装幀列伝 本を設計する仕事人たち』(blog No.32),イラストレーターの『装丁物語』(blog No.34)と続きました。
先週,名古屋に出た機会に三省堂書店で「装丁」を探索して『デザイナーと装丁』という本を見つけました。

デザイナーが造本に関わるようになった歴史と,現在の「ブックデザインは,何故かとても元気である」系譜を紹介しています。カラー図版32頁,文章40頁から成り,比率としては絵本の文字量です。購入後,名古屋駅構内のカフェ(CAFE DANMARK)ですぐに読み終えることができました。

この本からは,デザイナーを四つの世代に類型化できるように思います。第一世代はデザイン界の大御所・原弘氏(1903〜1986)や亀倉雄策氏(1915〜1997)が上製本の装本を手がけた時代,第二世代は田中一光氏(1930〜2002)や杉浦康平氏(1932〜)らが「トータルに本全体をデザイン」していったブックデザインの黎明期,その杉浦門下からの中垣信夫氏(1938〜)や鈴木一誌氏(1950〜)らの活躍期が第三世代,そして現在の葛西薫氏(1949〜)や原研哉氏(1958〜)へと続きます。本書では,まだ祖父江慎氏(1959〜)やクラフト・エヴィング商會(吉田篤弘/1962〜,吉田浩美/1964〜)の業績紹介は載っていません。

私が学生の頃(1979〜1983)は,既に第三世代期に入っていましたが,一部の出版を除きブックデザインは,とっても地味な分野のイメージがありました。入門書は皆無(編集出版の本はありました)で,今日のようなグラフィックとしてのガイドブックは見当たりませんでした。
時代は過ぎ,今やブックデザインは,グラフィックデザインとはまた別格の崇高なジャンルに位置づけられていることが当書からも読み取れます。

文庫本サイズですが,ハードカヴァーで,しっかり造られた書籍です。これがペーパーバック(文庫本の形態)だと購入する気になりませんでした。

『デザイナーと装丁』(小泉 弘,印刷学会出版部,2005年)1800円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
34:『装丁物語』 12:30
装丁物語
もともとは単行本(1997年初版)だったのが,新書判となって再登場(2006年)した本です。

作者であるイラストレーター・和田 誠氏が,この書名で「装丁」と呼んでいる工程は,カヴァー(表紙)デザインや挿絵が中心です。トータルな造本のエディトリアルデザインとは違うのですが,一冊一冊の表紙デザインにまつわる編集者や筆者との交流の様子や,発想の舞台裏がコミカルに語られています。

カヴァーのデザインが中心と書きましたが,幾つかの映画関係の本では「とてもうまく行きました」と自賛のエディトリアルデザイン(本文の誌面設計)も手掛けています。映画に造詣の深い方で,「映画の本の装丁」章では,装丁の解説よりも映画関係のエピソードが主役。
文字に興味がある私にとって,字幕(スーパーインポーズ)に使われる特徴ある手描き文字をタイトル文字に使った字幕の本の話(戸田奈津子『字幕の中に人生』)と,字幕書体の歴史はワクワクものでした。
そのほか,和田氏が小学生時に担任の先生だった方の出版では,とってあった当時のガリ版(謄写版:
blog No.20参照)文集の中から字を捜して拡大して題字に使った話。
物語の舞台となった佃島を訪ねた時に住吉神社の鳥居にあった額の飾り模様を表紙に使った裏話(丸谷才一『樹影譚』)。
また,エッセイの随所に「板前の心得」── 依頼内容を尊重しつつ,期待以上のものを意訳して提供する精神も述べられています。

最終章の「バーコードについて」は,これまでの軽妙さとは一転 した憤慨の意見文になっています。(続きを読む)に続く。

『装丁物語』(和田 誠,白水Uブックス,2006年)1050円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
32:『装幀列伝 本を設計する仕事人たち』 16:47
装幀列伝
装幀列伝(口絵) 口絵(表紙の次に別丁で入れる写真版)より

本の装幀の歴史背景(1950年代〜現在)と,装幀を担った人々の足跡が,主に時代順で綴られた新書判です。私は,今回,現在から過去へ,という風に逆から読んでいきました。

この本での,デザイナー・杉浦康平氏(1932〜)らが活躍し出す1970年代の記述以降が,私の「そう,そう」という臨場感を持って読める装幀の歴史でした。杉浦氏の登場以前は,そもそも造本にトータルなデザインという概念は無かったようです。装幀は版画家や編集者自身が,本文組は編集部内といった体制が趨勢であったことが窺えます。
本の中でも「1960〜70年代を中心に,杉浦康平の影響のもとにデザインの道に進んだ若者は少なくなかった」と,杉浦氏とその系譜関連の記述は1/3を占めています。
また「きちんとした紹介や評価を下されぬまま埋もれようとしている人が少なくない」として,高橋錦吉(1911〜1980),前川直(1929〜1988),清原悦志(1931〜1988)の三氏の発掘と,業績の紹介をしています。
ところが一方「杉浦イズム」の話題が多く出ているのに,その弟子である鈴木一誌氏は,この本には登場していないのは不思議なところです。

かつて,学生層にカリスマ的な存在であった雑誌『遊』(エディトリアルディレクター・松岡正剛),その出版元・工作舎は,現在,活躍するエディトリアルデザイナーに相当な影響を与えている点も改めて認識しました。『遊』は私が学生時の1980年代初頭にも発行されていましたが,その凄いカリスマ性のために,私は「ついていけないな〜」と感じたものでした。

装幀というデザイン領域の本ですが,新書ということもあり,やや学術的な硬派に属するかもしれません。

『装幀列伝 本を設計する仕事人たち』(臼田捷治,平凡社新書,2004)820円
続きを読む >>
| 編輯・出版 | - | - | posted by tomiyama - -
| 1/2 | >>